オランダの“消えた名匠”、18年ぶりの復活! 『素敵なサプライズ』の奇想天外な仕掛け

 TV番組や観光ガイドでよく見かける「自由の国、オランダ」という文字。法律や文化、国民性など様々な観点からこの国の「自由」が論じられる機会も多い。そして映画好きの視点からすれば、オランダ映画から受ける「斬新!」「奇想天外!」なインパクトもまた、何かこの国の「自由」を象徴しているように思えてならない。

 オランダ出身の映画監督といえば、ポール・ヴァーホーベンやアントン・コービンはもはや世界的な知名度を誇っているし、また最近では13年に公開されたアレックス・ファン・ヴァーメルダム監督による『ボーグマン』という映画も風変わりの極みだった。また16年に入ってからは4月にディーデリク・エビンゲ監督作『孤独のススメ』が公開され、こちらも「やってくれるぜ!」と親指を立てたくなるような気持ちのよい自由度。我々のような島国で暮らす人種としてはまず、イマジネーションのあり方として大いに学ぶべきところ、刺激を受けるべきものがあるのは明らかだ。

 そんな具合に、最近ちょっと勢いを増しているオランダ映画。その最新作として日本上陸を果たすのが『素敵なサプライズ』。こちらも非常にブッ飛んでいる。表向きはファンタジックなラブコメのようにも見えるものの、実際には生と死と愛を見つめ、独特の発想とブラックジョークとポジティブな感性で人生を温かく包み込んでいく異色作だ。

感情を失った男が、代理店で死を注文!?

 

 主人公は貴族の末裔として広大なお屋敷を相続したばかりのヤーコブ。母親を看取った後、悲しみに暮れるかと思いきや、介護の責任からようやく解放され、自分のやりたいことができると清々している様子。で、何がしたいのかというと、どうやら自殺してこの世と早々にオサラバしたいようなのだ。そこで思いつく限りの自殺方法を試みるのだが(なぜかこの場面で本作中もっとも明るくハッピーな音楽が流れる)、どれも一向に実らずじまい。

 そんなヤーコブが「ダメだ…死ねない…」とすっかり途方に暮れていた矢先、運命の歯車が回転する。たまたま拾った黒いマッチ箱に導かれるように、彼はブリュッセルにある「エリュシオン(旅立ち)」という名の代理店を訪れることに。ここは顧客に対して最上の死を提供するビジネス(もちろん非合法)を展開しており、予測不能の「サプライズ死」を切望するヤーコブにとってまさに願ったり叶ったり。さっさと契約を済ませ、ウキウキしながら棺桶を選んでいたところ、しかしここで思わぬアクシデントが発生。心ときめくような運命の女性と出会ってしまったのだ。

 彼女もこの代理店で死の契約を交わしたばかり。そんな死に急ぐ二人はなぜか意気投合し、強く惹かれ合い、いつ手配されるかわからない「サプライズ死」を待ちながら、その日その日を意外にもハッピーに過ごしていくことになり…。

「メメント・モリ(死を想え)」をベースにした変化球

 

 過去の出来事がきっかけで感情を失ったヤーコブは、目の前の「死」と向かい合うことで少しずつ喜怒哀楽を取り戻していく。さらには自ら望んだはずの死から逃れようと、黒服エージェントたちの追跡を巧妙にかわしていく。生きたいのか、死にたいのか、どっちだ!? と問いただしたくもなるが、しかし死を見つめることで限りある生が輝きだすという思想は、先人たちがすでに何世紀も前にたどり着いた境地であるし、こと映画に特化するならフランク・キャプラ監督の『素晴らしき哉、人生!』(46)をはじめ多くの作品が掲げるテーマとしてもお馴染みだ。

 たとえゴールに待つものが普遍的な価値観だとしても、そこに至るまでの過程はかなり異色である。そもそも「死の代理店」という発想からして凄いではないか。この映画の面白いところは、かくも始まりは「死」であったとしても、それを陰鬱に捉えるのではなく、むしろそこに様々な光をあてることで人生をプリズム状の輝きとして捉えていくところにある。死に追われながら高級車を豪快に激走させる二人は、さながら『俺たちに明日はない』(67)のボニー&クライドのようで、その激走している瞬間に彼らが感じる「生」こそ、我々が生きる長い人生の縮図といえよう。

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