90年代トレンディードラマ風の演出目立つ『ラヴソング』 歌唱シーンの魅力で評価を挽回できるか?
ただ、悪いことばかりではない。今回チーフディレクターを務めている西谷弘は『月の恋人』以来の月9復帰となり、福山とのコンビでは『ガリレオ』シリーズの第1期と映画2作を手がけている。とくに『真夏の方程式』ではテレビドラマの劇場版というレッテルを乗り越えて、映画ファンから高い評価を得た実力のある演出家である。随所に長回しの演出をかけてみたり、手持ちのカメラで登場人物の心理に迫るような見せ方をしたりと、あえてドラマらしい演出を避けているかのように思える。
とくに第1話のクライマックスで、ヒロインが思い出の曲であるというヘディ・ウエストの『500マイル』を歌うシーンではその演出が冴え渡っており、歌い始めるヒロインに徐々にキャメラが近づき、ゆっくりと引いていきながら福山のギターを手前に配置して奥に藤原を配置する。そこから再びヒロインに寄っていくのを、時折カットを割りながらじっくりと見せてくれる。映画でも西谷とコンビを組んでいる山本正明が務める編集もなかなか大胆である。
そのシーンでは涙ぐみながら歌うため、藤原の歌声をはっきりと聴くことができず(エンディング曲は藤原が歌っているけれど)、福山雅治のギターも軽く合わせているだけに留まり、このふたつの魅力が発揮されるのは次回以降へお預けとなるわけだ。いずれにしても、連続ドラマの第1話に必要な引き込みは少し弱いとは思うが、作品として評価を下すには第2話以降の動向を見てからにしても良さそうだ。
個人的に第1話で一番気に入ったのは、エンディングクレジット中の映像で、藤原が乗るヘルメットのシールド越しに桜並木がモノクロームで映る主観ショット。そのシールドを外すとたちまち視界がカラフルになり、満開の桜が綺麗に映し出される。第1話の予告のナレーションで言っていた「二人の出会いが、モノクロームだった日常を色付けていく」というフレーズを、こういう見せ方で表現してきたことには、思わずにやりとしてしまうのだ。
■久保田和馬
映画ライター。1989年生まれ。現在、監督業準備中。好きな映画監督は、アラン・レネ、アンドレ・カイヤット、ジャン=ガブリエル・アルビコッコ、ルイス・ブニュエル、ロベール・ブレッソンなど。Twitter
■ドラマ情報
『ラヴソング』
2016年4月 月曜9時放送
主演:福山雅治
脚本:倉光泰子
演出:西谷弘、平野眞
制作:フジテレビドラマ制作センター
公式サイト:http://www.fujitv.co.jp/lovesong/