映像の魔術師が『グランドフィナーレ』で描く、甘く切ない“老い”の境地

なぜ、彼は“老い”に魅了されるのか?

(c)2015 INDIGO FILM, BARBARY FILMS, PATHE PRODUCTION, FRANCE 2 CINEMA, NUMBER 9 FILMS, C - FILMS, FILM4

 私たちはよく“未来”や“夢”について目を輝かせて語りあう。しかし、ソレンティーノはそこでふと立ち止まり考える。「仮に80歳を超えた人物は、その人生の最終章で、一体どのような“未来”を思い描くのだろう?」。

 老人がふとした瞬間に人生を顧みる、いわゆる走馬灯のような映画はこれまでに何本も作られてきた。ソレンティーノはその逆なのだ。ようやく人生の折り返し地点にたどり着いた齢の彼が、あえて創造してみせる老いの境地。そこには「今の自分が経験していないことに興味がある。分からないことだからこそ、掘り下げてみる価値がある」という思いがあったようだ。そしてなおかつ、若き彼が掘り下げる“老い”だからこそ、そこには静謐さとヴィヴィッドさを併せ持つダイナミズムが生まれ、主人公の内面描写も無限の創造性によって膨らみを増していくのだろう。

 また、ハーヴェイ・カイテル演じる、老いてなお精力的に脚本執筆を行う映画監督には、ソレンティーノ自らの「老いてなお、こうありたい」という憧憬があるのは明らかだ(加えて、親交の深かった故フランチェスコ・ロージ監督への敬意も多分に含まれている)。

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 最後にもうひとつ触れておきたいのが、ソレンティーノの辿ってきた数奇な人生だ。映画学校に通うことなく世界的監督へと昇り詰めた彼は、16歳の頃、事故によって両親を2人同時に亡くすという悲劇に見舞われたことでも知られる。

 本来なら、子にとって親は、最も身近なところで“老い”を直視させてくれる存在。この機会を奪い去られたことは彼の人生に大きな影響を及ぼしたはずだ。もしかすると歳を重ねれば重ねるほど、そしていつしか自分が両親の年齢を超える頃合いになって、改めて様々な思いがこみ上げてきているのではないか。“老いの冒険”とでもいうべき彼の特異な作風には、このような感情の機微も大きく介在するのではないかと、余計な推測が膨らんでやまない。

 ちなみに、両親を亡くした時、本来ならソレンティーノ自身も同行するはずだった。しかし奇しくもマラドーナの出場する試合を観に行ったことで彼は死ななかったという。

 彼は何もギャグとして本作にマラドーナ(のソックリさん)を登場させたわけではない。ソレンティーノにとって彼はあらゆる意味でヒーロー。それを意識しながら本作に臨むと、あの巨漢な男が登場するたびに何か胸に熱いものがこみ上げてくるはずだ。

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 マラドーナだけではない。本作はそんな胸にしみる瞬間の繰り返しなのだ。ひとつひとつの襞をめくるように、記憶が、思いが、情熱が、そして音楽が溢れ出してくる。その全てがひとつに集約されるラストの「シンプル・ソング #3」。聴きながら、観ながら、思わず涙がこぼれた。と同時に、改めて、この若き巨匠の大胆さと情熱に圧倒される思いがした。

 人生は回転と直進の連続だ。これからもソレンティーノはフェリーニを超え、さらなる得体の知れない何者かへ、進化し続けていくに違いない。

■牛津厚信
映画ライター。明治大学政治経済学部を卒業後、某映画放送専門局の勤務を経てフリーランスに転身。現在、「映画.com」、「EYESCREAM」、「パーフェクトムービーガイド」など、さまざまな媒体で映画レビュー執筆やインタビュー記事を手掛ける。また、劇場用パンフレットへの寄稿も行っている。Twitter

■公開情報
『グランドフィナーレ』
4月16日(土)新宿バルト9、シネスイッチ銀座、Bunkamuraル・シネマ、シネ・リーブル池袋ほか全国順次ロードショー
監督:パオロ・ソレンティーノ
出演:マイケル・ケイン、ハーヴェイ・カイテル、レイチェル・ワイズ、ポール・ダノ、ジェーン・フォンダ
原題:YOUTH/2015/イタリア、フランス、スイス、イギリス/124分/カラー/シネスコ/5.1chデジタル
(c)2015 INDIGO FILM, BARBARY FILMS, PATHE PRODUCTION, FRANCE 2 CINEMA, NUMBER 9 FILMS, C - FILMS, FILM4
公式サイト:http://gaga.ne.jp/grandfinale/

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