『つむぐもの』キム・コッピ単独インタビュー
キム・コッピが語る役者としてのポリシー、そして韓国映画と日本映画の出演を通して感じること
石倉三郎が役者人生50年目にして初主演を務めた映画『つむぐもの』が本日3月19日に公開された。ワーキングホリデーで越前和紙作りの手伝いをするはずだった韓国人女性のヨナと、脳腫瘍で倒れてしまった和紙職人の剛生。そんなふたりの交流を、“介護”を通して描いた人間ドラマで、撮影は、越前和紙の里・福井県丹南地域と、世界遺産に登録された韓国百済時代の古都・扶余郡で行われた。韓国から日本に渡り、石倉演じる剛夫と友情を築いていくヨナ役を演じるのは、『息もできない』をはじめとする韓国映画はもちろん、『クソすばらしいこの世界』や『ある優しき殺人者の記録』などの日本映画にも出演しているキム・コッピ。リアルサウンド映画部では、そんな彼女にインタビューを行い、出演に至る経緯や撮影時のエピソード、そして韓国映画と日本映画の違いなどを語ってもらった。
「日本に来てから、意見をたくさん言うのは韓国的なスタイルなんだと気付いた」
ーーこれまでキム・コッピさんが演じられてきたイメージとは少し異なる役柄だなという印象を受けました。
キム・コッピ(以下、コッピ):どういうイメージだったんですか?
ーー日本だと、ホラー映画やバイオレンスな作品のイメージが…(笑)。
コッピ:あぁ…(笑)。あえて意図的にそういう作品を選んだというわけではなく、たまたまそういった作品のオファーが続いていたんですよ。
ーー脚本を読まれて出演を決めたそうですが、どのような部分に惹かれたんですか?
コッピ:そう、まず脚本が素晴らしかったんです。登場人物の感情や表現がとても繊細に描かれているなと思いました。ストーリーもありきたりなものではなく、現実感を込めようと努力しているのが伝わってきたし、何よりもリアリティがあるところに惹かれましたね。
ーー犬堂監督は同世代ですが、一緒に仕事をしてみていかがでしたか?
コッピ:犬堂監督とはほぼ同世代なんです。彼は、感情をとても大事にしてくれる監督でした。繊細な感情の演技をすると、その部分をうまく捉えながら演出をしてくれるので、一緒に作品を作っていく上で、非常によかったです。
ーー現場では意見を交わすことも多かったそうですね。
コッピ:韓国では意見を交わすことが普通なんですよ。日本ではそこまで意見交換をしないようなので、日本に来てから、意見をたくさん言うのは韓国的なスタイルなんだと気付きました。今回は監督が同世代ということもあって、監督自身も意見を活発に交換することを喜んでくれたので、ありがたかったです。
ーー犬堂監督はオフィシャルインタビューで「コッピさんは自分が100パーセント納得できないと芝居はしないというタイプ」と言っていますね。
コッピ:私としては当然だなと思っています。演技者として与えられた役の演技をするわけなので、その人物が置かれている状況だったり感情の変化だったりを100%理解できないと、やはり演じられないなと。
ーーなるほど。石倉三郎さんとのやりとりでは、シリアスな部分もあったり、コミカルな部分もあったりしますが、石倉さんとの共演はいかがでしたか?
コッピ:石倉さんとは、共演することができて非常によかったです。一緒に演技をしていて、よく息が合ったんですよ。実は、第一印象は少し怖い方だなという感じだったんですけど、全然そうじゃないことがわかりました。本当に心の温かい方で、たくさん話しかけてくださったり、冗談を言ってくださったりもして。あと、韓国人の知り合いがいるのか、韓国語の単語や韓国の歌など、韓国に関連したことをよく知っていたんですよ。話すときも、「タンべ(タバコ)吸いたい」とタバコの部分だけ韓国語で言ったり、「メッチュチュセヨ(ビールください)」と韓国語で話をしてくれたり、とても楽しかったですね。演技面では、撮影前のリハーサルで、監督と石倉さんと3人で、どのように演技をしていくかを話し合うことが多かったですね。
ーー今回、日本は越前が舞台になっていますが、越前での撮影はいかがでしたか?
コッピ:越前に行ったのは今回が初めてでした。昔から日本の田舎のほうに行ってみたいと思っていたので、映画などで観てきた風景を実際に見ることができてよかったです。風景もとても綺麗でした。
ーー東尋坊でのシーンも印象的でした。
コッピ:東尋坊の景色は本当に綺麗でした。実は東尋坊で撮影したシーンのうち、編集段階でカットされてしまったシーンがあって。アイスクリームを食べるシーンだったんですけど、そのアイスクリームが美味しかったです(笑)。紫色で確かさつまいもの味だったかな。あと、「カラスに気を付けてください」というようなことが書いてある警告文があって。「食べ物を持っているとカラスに取られることもあります。怪我をすることもあるので、気を付けてください」というようなことが書いてあって、その警告文がすごく恐かったんですよ。カラスに手を噛まれたらどうしようと思っていたんですけど、大丈夫でした(笑)。
ーー無事でよかったです(笑)。ほかに大変だったことはありますか?
コッピ:毎日毎日、休みもなく一日中撮影をするようなスケジュールだったので、それが大変でしたね。少し休みたい、寝たいと思ったこともあったりして。それ以外はすべて楽しかったですね。あと、撮影前の脚本を巡って、大変なことがありました。もともとは日本人の脚本家の方が書いた脚本だったんですけど、韓国でのシーンや韓国人同士のやりとりが、翻訳されてしまうとどうしてもぎごちなくなってしまって、セリフも少し違和感のある表現に感じたんです。文化的な描写も少し残念だなと思う部分がありました。なので、韓国人作家の方に入ってもらうことを提案して、その韓国人作家の方と私と通訳さんで脚色をしました。なかなか時間がない中での作業だったので、それも大変でしたね。
ーー具体的にどのようなことを変えていったんですか?
コッピ:文化的な違いや表現の違いというのが、どうしてもあるんですよね。例えば、部屋で漫画を読んでいるヨナが、母親に向かって「うるさいなあ」と言うシーンがあります。あのような状況の場合、韓国語では「うるさい」とは言わないで、「えーちょっと」ぐらいのニュアンスになるんです。なので、日本語字幕では「うるさいなあ」となっていますが、韓国語では「えーちょっと」と言っています。そのような細かい部分を変えていきましたね。