NHKドラマは震災とどう向き合ってきたか? 『恋の三陸 列車コンで行こう!』に見る描写の変化

 タイトルからもわかるように基本的には地方都市の町おこしを明るいトーンで描いた恋愛ドラマである。由香里のいとこ・岩淵七海を演じる黒島結菜のナレーションは明るく元気なもので、列車コンからはじまる恋愛や、さんまラーメン開発というB級グルメ要素。ご当地ネタとしての和太鼓のシーンなど、表向きだけ見ていると、同じ岩手県が舞台となった『あまちゃん』を現実的な方向に寄せた作品だと言える。

 だが、じっくり見ていると長女の彩佳が津波で行方不明になったということが会話の節々から明らかになってくる。唐突に挟み込まれる2010年に彩佳を撮影したデジタルビデオカメラの荒々しい映像は実に切なく、どれだけ登場人物が明るくはしゃいでいても、どこか暗い影が残っているという何とも微妙なバランスでドラマは成立している。

 本作のタイトルを見て、多くの人は震災をモチーフにしたドラマであるとはあまり思わないだろう。最終話こそ「死者とどう向き合うのか?」というモチーフが強く打ち出されるものの、列車コンでおこなわれるお祭り騒ぎや、そこで描かれるキャラクターの描写の方が強く印象に残るため、震災のドラマという印象は極めて薄い。しかし、普通に生活している町の人々のふとしたやりとりに震災の影が見え隠れする。

 現在フジテレビ系で放送中の『いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう』の震災描写と同様に本作もまた、2011年3月11日を、特別な日として自分たちの生活から切り離した非日常と捉えるのではなく、今の日常生活と地続きのものだということを描いているのだ。

 もちろん、このような間接的な描写が成立するのは、視聴者であるわたしたちの中にまだ当時の記憶が生々しく残っているからだ。これが今後、10年20年と経っていけば、震災を知らない若い世代も増えてくる。そうなれば、かつての戦争体験がそうであったように、記憶の共有が難しくなってくるだろう。

 その時はまた、ゼロから震災の情報を共有できるような形で物語化せざる負えなくなるのだろうが、現在は本作のように、震災時の描写は最小限にとどめて、行間を視聴者にゆだねる方が、より伝わるのではないかと思う。

■成馬零一
76年生まれ。ライター、ドラマ評論家。ドラマ評を中心に雑誌、ウェブ等で幅広く執筆。単著に『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!』(宝島社新書)、『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)がある。

■番組情報
NHK特集ドラマ『恋の三陸 列車コンで行こう!』
2016年2月27日放送スタート [総合] 毎週土曜 後10:00(全3回終了)
出演:松下奈緒 、安藤政信 、山崎静代 、松坂慶子 、黒島結菜
作:清水有生
【下記サイトで配信中】
NHKオンデマンド:http://www.nhk-ondemand.jp/goods/G2016067811SA000/
ビデオマーケット:http://www.videomarket.jp/nod/title/230G70

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