脚本家・演出家/登米裕一の日常的演技論

なぜ人は斎藤工をセクシーだと感じるのか? 若手演出家が声と役柄から考察

 先述したように、胸振ボイスで魅力的な低さの声の持ち主は、他者に対して“安定感”と“安心感”を与えます。その結果として、「この人は正しい事をしてくれそうだ」と感じさせるわけです。しかし、そういう人だからこそ、社会のルールを破りそうな役柄を演じると大きなギャップが生じます。一見すると、不倫などしそうになく、横領したり、ましてや殺人を犯したりといった悪事を働きそうにない人ほど、実はそうではなかったときに危うさを感じさせ、役を演じる上で際立ちます。

 だからこそ、斎藤さんが不倫に走る姿は刺激的で、人々の目を引くのです。斎藤さんほど“不倫”の二文字が似合ってしまう罪な男性は、なかなかいないでしょう。(あくまで芝居の話ですよ!)不安定に見える人が不穏な事をするのは普通です。安定している人がルールを遵守するのも普通です。しかし、安定しているように見える人が実は不安定を抱えているというのは、どうにも目を引かれますし、それが性的な意味合いを持った不安定さであれば、危うい色気として立ち上がります。

 動物園で「暴れている熊の檻」と「お腹いっぱいのウサギの檻」と「心穏やかなライオンの檻」と、どこかに入らなければいけないとしたら……あ、この場合は普通にウサギしかないですね(笑)。でも、スリルを感じてみたい、ドキドキを味わいたいという好奇心旺盛な人は、「ちょっとどうなるのさ、襲われちゃうのどうなの!?」と不安がりながらも、ついライオンの檻に入ってみたくなるはずです。そしてこの「どうなるかわからないけど気になる!」というドキドキこそが、“セクシーさ”の正体なのではないかと思うのです。

 斎藤さんが今回演じている火村英夫と言う役は、名探偵でありながら殺人願望を抱えているというかなり危ない人物です。しかし、斎藤さんは不安定で何をしでかすかわからない主人公を、その胸振ボイスでなんとかギリギリ成立させています。もう、見ているだけでドキドキものですね。『臨床犯罪学者 火村英生の推理』の役どころは、斎藤さんの素敵な声を活かす絶妙なキャスティングなんだなと、改めて感じて楽しい気持ちになりました。ほくほく。

参考:Kis-My-Ft2藤ヶ谷太輔、なぜ同性からもモテるのか? 若手演出家が演技面から考察

■登米裕一
脚本家・演出家。映画『くちびるに歌を』CX『おわらないものがたり』NHK『謎解きLIVEシリーズ』などの脚本を担当。大学時代に旗揚げをした劇団『キリンバズウカ』の主宰も務める。個性豊かな登場人物たちによる軽快な会話の応酬を持ち味としており、若手作家の躍進著しい演劇界の中でも、大きな注目を集める。また演技指導家としても評価を得ており、現在多くのワークショップ依頼を受けている。

■ドラマ情報
『臨床犯罪学者 火村英生の推理』
日本テレビ 日曜22:30から放送中 
出演者:斎藤工、窪田正孝、優香、山本美月、長谷川京子、生瀬勝久、夏木マリ
公式サイト:http://www.ntv.co.jp/himura/

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