ジョン・ヒューズ作品はなぜ今も愛され続ける? 80年代を代表する青春映画監督が残したもの

 2006年にカナダのインディペンデンス系のドキュメンタリー作家達が、『Don’t You Forget About Me』(96)というタイトルでジャド・ネルソンやアリー・シーディ、ハワード・ドイッチといったヒューズ作品のキャストや監督たちにインタビューを試み、最終的にヒューズに会いに行くという大胆なドキュメンタリー作品を製作した。このドキュメンタリーで分かったことは、ヒューズがそれまで仕事をしていた仲間たちとも一切連絡を取っていなかったという事。カメラに向かって「ジョン、連絡をくれよ」とネルソンやドイッチが問いかける映像や、リアルタイムではヒューズ作品を観ていないけれども、『フェリス〜』や『ブレックファスト〜』を愛する地元の子供たちの熱いメッセージをビデオディスクに収め、イリノイ州郊外にあるヒューズ行きつけのピザ屋の協力を経て彼の自宅をアポなしで訪れたクルーたちは、「主人は留守」と追い返されながらも、メイドにビデオと手紙を託し帰国する。

 しかしその数か月後ヒューズの元に届けた手紙とビデオが、何のメッセージも無くそのまま送り返されてきた所でドキュメンタリーはエピローグを迎える。そしてここまで徹底して隠遁生活を送らなければならない理由が分からないまま、2009年8月9日の早朝、ニューヨークの路上をウォーキング中に心臓発作で倒れ帰らぬ人となった。享年59才、まだまだ第一線で活躍する脚本家としても通用する年齢だった。

 ヒューズの熱狂的なファンでもあり、デビュー作『クラークス』(94)からヒューズ作品からのセリフの引用や、出演者たちをキャスティングしてヒューズの後継者として期待されていたケヴィン・スミスは、ヒューズの死後は『レッド・ステイト』(11)や『Mr.タスク』(14)といったホラー映画に方向転換してしまい、まるで舵を失った船のように今も迷走している。

 唯一、ヒューズと同じテイストを持つ脚本を書き、ヒューズが敵わなかったアカデミー賞の脚本賞を処女作『JUNO/ジュノ』(07)で獲得してしまったディアブロ・コーディが今となっては残された希望のように感じられる。元ストリッパーで脚本家という異色の経歴の持ち主だが、若者言葉を巧みに操り、独自のテンポでグイグイとストーリーを展開させていく手法はヒューズの持ち味に近いセンスを持っている。コーディ自身も8才で初めて『ブレックファスト・クラブ』を観て以来、熱狂的なファンを自負し、同作の25周年記念時に収録されたドキュメンタリーでは、スタッフ・キャストたちに混じり熱いコメントを残している。

 コーディがオスカー監督ジョナサン・デミと組んだ最新作『幸せをつかむ歌』(15)では、ロック歌手になるという夢を追いかけて夫と子供を捨てた売れないミュージシャンという役柄をメリル・ストリープに託し、ヒューズ譲りの選曲センスで観客を魅了する。ヒューズが手がけてきた青春映画とは一味違う畑ではあるが、「負け犬」キャラの「挫折」と「再生」というテーマは、次世代のコーディの中にしっかりと受け継がれているのだ。

■鶴巻忠弘
映画ライター 1969年生まれ。ノストラダムスの大予言を信じて1999年からフリーのライターとして活動開始。予言が外れた今も活動中。『2001年宇宙の旅』をテアトル東京のシネラマで観た事と、『ワイルドバンチ』70mm版をLAのシネラマドームで観た事を心の糧にしている残念な中年(苦笑)。

■公開情報
『幸せをつかむ歌』
3月5日(土)ロードショー
監督:ジョナサン・デミ
脚本:ディアブロ・コーディ
出演者:メリル・ストリープ、ケビン・クライン、メイミー・ガマー、オードラ・マクドナルド、セバスチャン・スタン
公式サイトhttp://www.shiawase-uta.jp/

関連記事