検閲ギリギリのラインを攻める!? 中国共産党バトルエンタテインメント『タイガー・マウンテン』

 当然ながら、劇中では人民解放軍が絶対的な正義として描かれてはいる。一方で、匪賊側もきちんと人間性を持つ人々として描かれており、国民党や日本をことさらに貶める描写もほとんど登場しないため、本作からプロパガンダ的要素を感じることはほぼないはず。ハーク監督は検閲ギリギリのラインで、究極の“中国共産党バトルエンタテインメント”を作り上げることに成功しているのである。さらに、映画のラストにはビックリするような荒唐無稽なオチと、「ハリウッドなど必要ない」と言わんばかりの皮肉めいたあるアクションシーンまで用意されている。かつて、ハーク監督がアメリカ進出に失敗したことを知るファンは、このシーンににやりとするに違いない。

検閲をものともしない香港の映画人たち

(C)2014 Bona Entertainment Company Limited All Rights Reserved.

 ツイ・ハーク監督以外にも、検閲下で結果を残している香港映画人は多数存在する。『少林サッカー』で知られるチャウ・シンチーは、監督作『西遊記~はじまりのはじまり~』で240億円を稼ぎ出し、2013年の中国興行収入1位を記録している。

 ピーター・チャン監督の『最愛の子』は中国で興収60億円を超える大ヒットを記録。中国で頻発する児童誘拐事件を題材にした実話に基づく物語ながら、中国政府と検閲に引っかからないラインでの製作をギリギリまで模索し、作品を成立させている。

 香港ノワールの巨匠として世界的な評価を受けるジョニー・トーは、2014年に中国・香港資本で『ドラッグ・ウォー 毒戦』を監督している。中国の麻薬問題の闇を描きながらも、公安警察をメインに据えることで検閲をクリア。なおかつトー監督らしいノワールテイストも残し、香港電影金像奨で多数の賞に輝いた。ただし、作家性の強いトー監督は、潤沢な資金よりも自由度の高い香港での製作が好みのようだが。

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 ほかにも『ゴッド・ギャンブラー』シリーズのバリー・ウォン監督や、誰もが知るジャッキー・チェンなど、中国で成功した人物はまだまだいる。彼らに共通するのは、検閲と折り合いをつけながらも、キチンと自分らしさを発揮する、いわば“職人性”を備えているというところだ。

 中国映画市場については、「検閲が存在する」という事実ばかりが先行し、ネガティブな印象を強く持っている方も多いだろう。しかし、実際には優れた作品が次々と誕生しているのである。極端なことを言えば、検閲の存在によって市場を意識する職人的な創意工夫が生まれ、輝く映画もあるのではないだろうか。『タイガー・マウンテン 雪原の死闘』はその神髄を体現する作品として、ぜひ鑑賞していただきたい。

◼︎藤本 洋輔
京都育ちの映画好きのライター。趣味はボルダリングとパルクール(休止中)。 TRASH-UP!! などで主にアクション映画について書いています。Twitter

◼︎公開情報
『タイガー・マウンテン~雪原の死闘~』
公開中
監督:ツイ・ハーク
脚本:ホアン・チェンシン
出演:チャン・ハンユー、レオン・カーフェイ、ケニー・リン、ユー・ナン、トン・リーヤー、ハンギョン
配給:ツイン
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