『ソレダケ/that's it』『爆裂都市 BURST CITY』リリースインタビュー

『爆裂都市』から『ソレダケ』へーー石井岳龍監督が再びロック映画に向かった理由

「時代を映す何かのドラマが映画として結実できるのであればやる」

石井岳龍監督

ーー監督は人間の内面を深く追求したような静かな映画も多く作られてますが、それは暴力描写のある種の極端さの裏返しという意味もあるんでしょうか。

石井:そうですね…おそらく…一番大きかったのはオウム真理教の事件なのかなあ(地下鉄サリン事件は1995年)。あの時すべてがイヤになっちゃって。なんかその…別のものを見たくなったんです、自分の中で。オウム事件が発覚する前にちょうど『エンジェル・ダスト』(1994年)を作ってたんですけど。『水の中の八月』のシナリオも同時に作ってたのかな。オウム事件そのものというより、オウム事件を起こす日本、みたいなものに自分の中では非常に危機感があって。電車に乗ってても怖かったし。殺気を感じたっていうかな。世の中の人全員が殺気だっている。その殺伐さを暴力描写で描く気にはどうしてもなれなかった。違う形で表すことで、新たな表現の可能性を見いだせないかと。それで自分の中にある女性的な部分に目を向けたい、という気持ちがすごく強くなったんです。『水の中の八月』とか『ユメノ銀河』(1997年)はそういう作品ですね。世界をああいう風に見る、という意識は間違いなく自分の中にある。少し極端にデフォルメしてますけど。それは『狂い咲きサンダーロード』『爆裂都市』と同じで、イコールではないですから。映画的な表現として極端にデフォルメして、みんなを楽しませたい、という気分があるから。あえて自分の女性的な部分をブーストするという作業が、あの時はとても面白かった。それで自分の中のイヤな気分を払拭したかったんですね。

ーーなるほど。

石井:でも世の中がデジタル化して、ひとりひとりがスマホやPCを持つようになって、無意識の怒りみたいなものが、そういうものに閉じ込められている。各々が孤立してるのは同じなんですけど、表面上は目に見えなくなってきてる。そこで自分なりの新しい表現とは何なのかっていう模索は常にしている、ということですね。ものを作る人間は、世の中に起こってることをそのまま再現するんじゃなくて、今現在進行している目に見えない何かを形にしていく。それはもう、宿命みたいなものなんです。そうせざるを得ないというか。

ーーそれはさっき監督がおっしゃった「映画は時代を反映する」ということですか。

石井:そうですね。有難いことにいろんなオファーが来ますけど、その中で自分なりに時代をどうやったら映せるか。時代を生きてる人間、時代を生きてる事件とか、時代を映す何かのドラマが映画として結実できるのであればやる。自分の中でもそういう題材を常に煮詰めてるし。うまくいけばいいけど、うまくいかないと何年もかかってしまう、ということですね。

ーー映画は企画だけ持ち上がって実現しないことが多いわけですよね。

石井:圧倒的に多いですね。実現しなかった企画の方が山ほど。でもその精神が生き続けて、時間はかかっても実現することもあるし、そのときの時代性がなせるわざで、今作ってもしょうがない、という企画もありますよね。結果的に捨ててる企画の方が多い。でもその作りたかったコアの部分が消えなければ、違う形で花開いたりする。

ーー監督の内面的なものは、そのつどの時代の空気みたいなものを投影して、いろんな形で作品になっていく。

石井:体質がそうなんですね。チューニングしちゃう。いろんな電波を拾っちゃうというか(笑)。小説や音楽だと、作るスピードが比較的速いと思うんですけど、映画の場合、どうしてもお金、製作費というのが絡んでくるから時間がかかる。さらにそれを具現化するのが俳優さんでありスタッフである。そして映画館、観客という、一体となった巨大なシステムなので。個人の思いとそれが結び付かない限り、現出しないんですよね。

ーーそれがもどかしいと思うことはありませんか。

石井:ありますけど、でもオレは共同作業が好きなので。俳優さんやスタッフと仕事することがとても好きなんです。こう見えて非常に根暗な人間なんで(笑)、何もないと閉じこもってあまり人とは会いたくないというタイプなんですけど、映画の時だけはお祭りみたいに、みんなでテンション高めてガーッとやれる。
でもその前後はシナリオを書いたり企画を考えたり、自分のアイディアを熟成させたり。撮影が終わると延々と編集室にこもってーーまあ編集スタッフとか音のスタッフはいますけどーー長いんですよ、その作業が。派手なとこばっかり見えるかもしれないけど非常に地味な仕事なんです(笑)。でもそういう地味な作業だけだと、新しいものと接触しなくなるし、性格も暗くて危ねえんじゃないかと思うんで(笑)。映画の撮影は自分にとって天職…って言っていいのかな。自分の暗い面と弾けたい楽天的な面の両面をうまくバランスよく満たしてくれる。だから1年に1回は撮影したいですね。精神的な意味でも。

ーーわかる気がします。

石井:でも今まで作りたくなくて作った作品なんか1本もない。毎回できる限りのことをやってきた。私は今の自分にしか作れない作品を作っているつもりなんです。今回はブッチャーズの吉村君との出会いが非常に大きかったし、俳優さんたちと一緒に仕事をしたいという純粋な気持ちが大きいですね。自分一人でやれることってたかが知れてるし。自分の世界観とか、人間観を広げたいし、新しいことを知りたい。毎回驚きの連続なんで。オレが考えてるより世界は面白いな、という。年取ってくるとだんだん凝り固まって頑固になってくるじゃないですか。世の中こんなもんだみたいな、そういう決めつけをぶち壊したくなる。それはとても楽しいことですね。

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