芳根京子は大女優の器か? 隠れた名作『表参道高校合唱部!』に見る可能性
現在TBSの金曜22時枠で放送されている『表参道高校合唱部!』。地方から転校してきた合唱好きの少女が、廃部寸前の合唱部を立て直していく様を、毎週週替わりでポップスから往年の名曲まで幅広い選択肢の中から選ばれた楽曲の合唱アレンジと共に描く学園ドラマだ。
2001年に宮崎あおい主演でドラマ化された日本テレビシナリオ登竜門受賞作『青と白で水色』をはじめ、『マルモのおきて』や『PRICELESS~あるわけねぇだろ、んなもん!〜』といった人気ドラマを手掛けた櫻井剛による脚本だけあって、オールドファッションな筋書きながらも、人物描写の描き方が安定していて、ここ数年の連続ドラマの中でも秀でた出来映えの一本である。
とりわけ、このドラマの第1話を観たときに衝撃を受けたのは、主人公・香川真琴を演じている女優である。芳根京子という、その名前を、それまでノーマークだったことを後悔しつつ、CMに入った途端に慌てて調べてみると、昨年放送されていたNHKの朝の連続テレビ小説『花子とアン』の終盤に出演し、また今年公開された本広克行監督の『幕が上がる』にも出演しているではないか。どちらも観ていたにもかかわらず、この女優の存在を意識していなかったことに、若手女優ウォッチャーとして反省するしかできなかった。
『表参道高校合唱部!』の中で、彼女が演じる真琴というキャラクターは、天真爛漫で、どこか抜けたところのある少女。合唱が好きで、転校先の学校内のスクールカーストなど気にもせず突っ走り、歌い、笑い、飛び跳ねる。常に彼女の見せる芝居には動きがあって、動きに表情があるのだ。こんなにも理想的な女優がいただろうか。極端な話、彼女が自由に歩いている姿を二時間映し続けていても、それだけで一本の映画が完成する予感がする。例えて言うなら、歴代の大林宣彦の映画のヒロインや、相米慎二の『東京上空いらっしゃいませ』の牧瀬里穂を彷彿とさせるような、動きのバランスの良さと驚異的な存在感に、とてもドラマ初主演とは思えない堂々たる演技を見せつけられたのである。
是が非でも彼女をじっくりとスクリーンで観てみたいと思っていた矢先、『向日葵の丘 1983年・夏』が公開された。常盤貴子演じる主人公の高校時代の役柄を演じ、ほぼ主役級の活躍を見せる。名画座に通いつめて懐かしのハリウッド映画に涙する姿や、『雨に唄えば』のシーンなど、随所で見せる彼女のパワフルな演技力は、友人役で共演している同世代の女優(二人とも非常に巧い。とくに田中美里の高校時代を演じる藤井武美は、韓国映画界の実力派クァク・ジヨンの新作ヒロインに抜擢されたのだから、その実力は言うまでもないだろう)を軽々と超えていき、この映画全体を独占してしまうほどに魅力的であった。