大木芙沙子、衝撃のデビュー作品集『叔父は肩幅が1メートルあったらしい』のユニークすぎる内容とは?

『叔父は肩幅が1メートル~』の内容とは?

「2026年、最注目著者 衝撃のデビュー作品集」と、本の帯に書いてある。だけど作者の大木芙沙子は以前に、電子書籍で短篇集『花を刺す』を刊行している。本書には、その『花を刺す』に収録されている11作のうちの6作と、さまざまな媒体に発表した4作、書き下ろし2作が収録されている。紙の本は本書が初めてなので、「衝撃のデビュー作品集」といっても、間違いではないだろう。

 などと偉そうにいっているが、私は『花を刺す』を完全に見落としていた。こんなユニークで面白い作家に気づかなかったなんて! 自分のアンテナの低さにがっかりだ。まあ、そんな愚痴はどうでもいいので、バラエティ豊かな収録作を紹介していこう。

 冒頭の「金子さん」は、奇妙な話である。住宅地の中にある小さなスーパーマーケット「スーパーナカヤマ竜子店」のパートタイマー募集に、ふたりの応募があった。ひとりは主婦の田中さん。そしてもうひとりが、金星人の金子さんだ。金星人だから金子ではなく、夫の名字だという。ということは地球人の男性と結婚したということか。

 金子さんは青い歯で、緊張すると耳のような穴から煙が出て、温泉に似た匂いがする。自転車にうまく乗れないらしく、ママチャリに補助輪を付けている。本部に連絡したものの、「今どき異星人だからって不採用にするわけにはいかないでしょう」といわれ、店長の笹本は金子さんを雇った。まだ日本でも異星人は珍しいようで、他のパートとうまくいくかどうか心配していた笹本だが、金子さんは持ち前の明るさと愛嬌ですぐにみんなと馴染んでいく。

 金星人が出てくるのだが、SFを読んでいるような気はしない。金子さんの存在を、コンビニなどで外国人が当たり前のように働いている、日本の現状の暗喩と見做すことは可能だ。しかしそれも、しっくりこない。金子さんが金星人ということを除けば、特にストーリーに起伏がなく、だけど妙に面白い作品を、どう理解すればいいのか戸惑った。

 この戸惑いが解消されたのが、第三話「ジャンピング・ジャック・フラッシュ」を読んだときだ。コンビニで買い物をしてアパートに帰る途中の典介は、十鱒という奇妙な男に声をかけられる。ずうずうしく典介の部屋に上がり込んだ十鱒は、「せっかく友人になったんですし、今夜、一緒に転がりましょう」という。何が何だか分からない典介だが、十鱒に誘われるまま、真夜中の坂道を前転で転がり落ちていく。

 という粗筋からも察せられるように、これも奇妙な話である(そもそも本書に収録されているのはすべて奇妙な話だ)。留意すべきは、勢いよく転がり出した典介が“嫌というほど歩いてきた坂のはずなのに、なんだか全然知らない道に見えた。夜のせいだろうか。こんな建物があっただろうか。こんなところに脇道があっただろうか。そもそも、いくらなんでもこんなに長い坂道だっただろうか”と思うところである。坂道を転がることで典介は、見慣れた風景を見知らぬ風景のように捉える。その見知らぬ風景こそが、作者の見ている世界なのかもしれない。

 たとえば、ふたり並んで同じものを見ても、それを同じように捉えている保証はない。人の認識にはズレがある。勝手な想像だが、作者はそのズレが大きいのではないか。このズレを金星人や、坂道を転がり落ちるときに見た風景で表現しているような気がする。

 他の話も同様だ。「或る男」の、誰もが別人を連想し、“個”という存在が希薄な俳優の人生。「叔父は肩幅が1メートルあったらしい」の、生まれたときから肩幅が異様に大きく、それゆえに居場所をなくしていく叔父さん。本書には何らかの理由で、世界からズレてしまった人々(人間以外の知的生命体もいる)の物語が多い。お笑いコンビの誕生から現在までの歩みを描きながら、ラストで明らかになる語り手の予想外すぎる正体に困惑する「伊藤農園」のような話もある。どれも作者の内面から溢れ出てきた、独自の物語世界なのだ。だから本書の刊行によって、ひとりでも多くの人に、この才能が届くことを期待しているのである。

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