Z世代「ほめられると気まずい」の真意とは? SHIBUYA109 lab.所長・長田麻衣に聞く、「Z団子」の価値観

『ほめられると気まずすぎてしぬZ世代、ほめて伸ばそうと必死になる上司世代』(徳間書店)

 『ほめられると気まずすぎてしぬZ世代、ほめて伸ばそうと必死になる上司世代』──そんなタイトルに、思わずドキッとした人も多いのではないだろうか。本書は、1万人を超える若者の声に向き合ってきた「SHIBUYA109 lab.」所長・長田麻衣による新刊だ。

 Z世代(1996年頃~2012年頃生まれ)と上司世代(1965年頃~1981年頃生まれ)のあいだに生じやすい職場でのコミュニケーションのズレに光を当て、その背景にある価値観の違いを軽やかにひもといていく。

 なぜグループチャットに“既読はつくのに返信がない”のか。なぜ人前でほめても喜ばれないのか。どうすれば、無理なく関係を築いていけるのか。本書で提示されるポイントについて、長田に話を聞いた。そこには、オフィスで感じがちな違和感の正体はもちろん、学校や家庭にも応用できるヒントが詰まっていた。

「主体性」の意味から違う!? 世代間ギャップが起きる理由 

――タイトルを読んだとき、一時期SNSで頻繁に流れていた「しぬぅ!」という音声素材の声が思わず脳内再生されました。

長田麻衣(以下、長田):まさにそれを意識しました(笑)。タイトルに若者言葉を入れたいと思っていたときに、ちょうどそのフレーズと音声素材がSNSを席巻していたんです。同時に「気まずい」という言葉も流行っていて。「ほめられると気まずい」というのは、Z世代を象徴するような感覚だと感じていたので、「ほめて伸ばそうとする上司世代」と対比させたタイトルにしました。

――たしかに、「ほめて伸ばす」ことが若者のマネジメントとして正解だった時代がありました。そうして育てられた上司世代からすると、ちょっと戸惑う感覚でもありますよね。

長田:「なんで?」ってなりますよね(笑)。でも、彼らにとってはすごくリアルな感覚なんです。

――改めて、このテーマの本を書こうと思われたきっかけは何だったのでしょうか?

長田:私はSHIBUYA109 lab.の所長として、14〜25歳の若者を対象に1万人以上をインタビューし、消費価値観を研究してきました。SHIBUYA109内のスペースに5〜6人を集めてインタビューするスタイルで、優等生的な回答に終わらないよう工夫しながら続けてきました。そうしているうちに、Z世代ならではの傾向が見えてくるようになりました。

 若者の消費行動を参考にしたいという企業に対して講演を続けてきたのですが、ここ数年で「Z世代の社員とどう向き合えばいいか」という相談が急増したんです。Z世代と呼ばれる人たちの年齢も、上が30歳と職場のなかで結構なボリュームゾーンになってきていることから、ギャップが顕在化しているのだと思います。そこで、“世代間の翻訳”役となるような本を作りたいと考えました。

――消費と職場でのコミュニケーションの傾向は繋がるところは多くありますか?

長田:かなり強くリンクしていると思います。例えば、「主体性」という言葉ひとつとっても世代によって前提がかなり違っているんですよ。上司世代にとっては「なにかやることはありませんか?」と“自分から取りに行くこと”という意味で使われている言葉ですよね。ところが、Z世代からすると主体的な行動とは“与えられたものに対して能動的に応えること”と捉えられていることが多いんです。

 これは消費行動でも近いものがあって、Z世代は生まれながらスマホとSNSがあった世代。効率的にコスパやタイパを重視する傾向にあります。買い物に関してもまずSNSのアルゴリズムでおすすめとして流れてくる情報をもとに、自分の興味があるものをより深く調べていくというパターンが定着しています。なので、職場で「主体性を持って働いてほしい」といっても世代間でイメージされるものがズレていってしまうという課題が出てくるんだと思います。

Z世代の価値観はどう生まれた? 3つの社会的背景

――先ほど企業側から相談が増えたとおっしゃっていましたが、具体的にはどのようなシーンで困っているという声がありますか?

長田:最も多いのは「反応してくれない」という悩みです。会議でもチャットでも発言や返信がない。「何を考えているのかわからない」という声をよく耳にします。

――それはツラいですね……。

長田:私は、上司世代とZ世代に挟まれた“一部上司&先輩”世代(1981年頃~1996年頃生まれ)。多様性を尊重することを重視している世代でもあるため、どちらの気持ちも汲み取りつつ、後輩たちには「みんなわかってるよね? ね?」と呼びかけ、先輩たちに「みんなわかってます!」と代わりにリアクションしたりしています(笑)。

――“世代間の翻訳”役を地でいっていますね(笑)。各章の終わりには、「上司世代の皆さんへ」というエールのようなものもあるのも印象的でした。

長田:やはり立場上、配慮する側にならざるをえない上司世代の大変さがあるなと書きながら思っていて。でも、Z世代も決して「やる気がない」わけではないんです。むしろ逆で、「どう見られるか」を気にしすぎるあまり、動けなくなっている。自分だけ発言して目立つことが怖いんです。

――著書のなかではZ世代を理解するために、「凪」というキーワードが出てきました。

長田:彼らは波立てず、平和に暮らすことを第一に考えているところがあります。以前、Z世代の男の子にインタビューをしたとき、「感情の高ぶりを見せたくない」と言っていたのがとても印象的でした。怒っている姿はもちろん、喜んでいる姿も「余裕がない」「カッコ悪い」と見えてしまう、と。何かに必死になることを、周りから「頑張っちゃってる」「空回ってる」と思われるんじゃないかと感じてしまうようで。なるべく、そうした感情的な自分を見せたくないと話していました。

――常に周囲からどう見られているかを強く意識していることがよくわかるエピソードですね。そうした価値観が生まれたのは、やはり社会的な変化が大きいのでしょうか?

長田:そう思います。本のなかでも「Z団子」という言葉を出しているのですが、みんなのなかにいることが、彼らにとってはすごく安心なんです。そうした価値観を育んだ影響は、大きく3つあったと考えています。1つ目は、やはりスマホとSNSの普及。2つ目は教育。3つ目は経済です。まず、スマホやSNSによって失敗が可視化されやすい社会になり、「自分は失敗したくない」「傷つきたくない」という意識が、より強くなったと思います。

――先輩世代はネット上に黒歴史をたくさん投下したものですが(笑)。

長田:わかります、私も日記とかアップしていました(笑)! もちろん先輩世代も上司世代も傷つきたくないのは一緒なんですが、そこから学んだり強くなっていくことを躊躇する傾向にあります。

 2つ目の教育については、ちょうどグループワークなど協調性をもって取り組む課題が多く取り入れられたことが大きいと思います。そして、運動会の徒競走で順位をつけないといった「みんなで」という動きが強まっていったことも影響していると考えました。

――「みんなで手をつないでゴール」というのは、都市伝説的な話かと思っていました。

長田:実際にありました。「ほめられて気まずい」というのは、こうした良いことで注目されるのは居心地が悪い、という感覚になっているのかもしれません。

 そして、経済的にも成長率が鈍化しているので「頑張れば報われる」という実感を持ちにくくなっています。上昇志向や出世欲にも繋がりにくく、「偉くなりたい」「稼ぎたい」というよりも「今の生活を安定して維持していく」ことが大事になっています。

――少し極端に言うと、「頑張る意味が見えにくい」世代とも言えそうですね。

長田:そう見える部分はあると思います。承認欲求も、不特定多数からというよりは、自分の居場所として考えている「界隈」のなかで得られることを重視しているように感じています。

――その「界隈」に、職場は入らないんですね。

長田:そうですね。彼らはすごくゾーニングを大事にしています。それこそ、波風を立てたくないので、価値観が合う人とだけ繋がっていればいい。そうではない人とは距離をおいて関わらないという、ある意味で徹底した部分があります。なので、同じ「界隈」にいる人たちからの視線はすごく気にするけれども、そうではないゾーンにいる人からはどう思われても構わないという感覚です。

熱意よりロジック。Z世代に響くコミュニケーションの設計

――一方で、上司世代としても強くは言えない世の中になってきました。

長田:なので、やはり大事なのは仕組みづくりだと思います。上司のみなさんは「思い」の部分で動いてきた部分が多いと思うので、同じように理念や熱意で引っ張っていこうとしているかもしれません。思いをぶつけ合い、泣いたり笑ったりしながら、絆を深めていく……。私自身も「この大義のために頑張ろうよ」と言われて、食らいついてきたタイプなので、すごくわかります。

でも、Z世代からするとそれは「重い」(笑)。なので、大きなビジョンを見せるよりも、小さなミッションを提示してタスク化することが大切です。「このチームにおけるあなたの役割はこれです」「このときまでにこうなっていてもらいたいと思います」「そのために今やるべきことはこれです」といったように、ロジックを立てて説明するコミュニケーションが有効だと思います。

――ほめ方にもポイントがありそうですね?

長田:はい。ほめられることそのものは嬉しいのですが、目立つ形でほめられると、それこそ「気まずくてしぬ」(笑)。なので、日々の小さな場面で、さりげなく、こまめに、ほめることが大事です。どちらかといえば「見てくれている」という安心感を与えていくイメージで接するといいと思います。

――この傾向は、世界的にも見られることですか?

長田:世界各国のZ世代についてしっかりと調査しているわけではないので断言はできないのですが、海外の方と日本のZ世代の話になると「調和を重んじて目立つのを避けたり、SNSで匂わせて話すみたいなことは日本の若者特有だ」という話になりますね。

――日本人がもともと持つ奥ゆかしさに由来しているのでしょうか。考えてみたら「匂わせ」という言葉には、どこか平安的な響きがありますね。

長田:私も常々そう感じていて。以前インタビューの振り返りをしていたときに、「Z世代って、マジ雅だよね」なんて盛り上がったことがあります(笑)。感情は極力人から見えないところでこっそりと。でも、何も感じていないわけではないということを、SNSにちょっと暗示させていく感じが。

 この本を通じて、そのくらいライトに世代間ギャップに触れてもらえたらうれしいですね。どちらが正しいというのではなく、「そんなふうに思っていたの?」と誤解が解けるように。各項目で両世代の「本音」を示しているのも、そうした歩み寄りを願ってのことです。

――お話を聞いていると、上司と部下という関係性だけでなく、先生と生徒、親と子どもの間でも役に立ってくれそうな本だと感じました。

長田:ありがとうございます。ちょうど母校の恩師にこの本を送ったら「生徒とか本当にこんな感じ!」という感想をいただきました。高校生からもうこのギャップって始まっているんだと実感したところです。

 とはいえ、この本で「Z世代はこう」と大きく括って話したいわけではなくて。やっぱり大事なのは、目の前の個人との向き合い方だと思っています。「Z世代ってこうなんでしょ?」と決めつけて話をされてしまうのも、また新しい不調和が生まれてしまいかねないので(笑)。

 Z世代と上司世代だけでなく、目の前の相手と「なぜコミュニケーションがうまくいかないんだろう」と思われたときに、お互いが当たり前だと思っていた価値観やルールの違いがあるのかもしれない。そうした想像するきっかけとして、この本が、そのきっかけとして役立てばうれしいです。

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