AI時代にこそ「グラフの読み方」を学ぶべき理由とは? データサイエンス専門家に聞く、“自分の頭で読み解く力”の必要性

『頭のいい子がやっている すごいグラフの読み方』(カンゼン)

 統計やデータサイエンスを専門とし、とりわけ長年にわたって教育の現場に力を注いできた渡辺美智子立正大学データサイエンス学部教授が監修した新刊『頭のいい子がやっている すごいグラフの読み方』(カンゼン)が刊行された。『こども統計学』『こどもデータサイエンス』に続くシリーズ第3弾となる本書は、棒グラフや折れ線グラフといった身近な図表を題材に、「グラフをどう読むか」を子どもにもわかる形で解説した一冊となっている。

 本書が扱うのは単なる「グラフの知識」ではない。数字や図表をどう読み解くのか。そこにはどんな情報が含まれ、誰がどのような意図でその形にしているのか。そうした問いを立てながら考える力こそ、本書の核にあるテーマだ。

 情報があふれ、生成AIまで日常に入り込んできた今、目に入った情報をそのまま鵜呑みにせず自分の頭で読み解く力は、子どもだけでなく大人にとっても欠かせない教養になってきている。

 なぜ今、「グラフの読み方」なのか。統計やデータサイエンスの教育はこの数十年でどう変わってきたのか。そして、この激動の時代を生きる子どもたちのために、親世代は何を意識すべきなのか。監修者の渡辺美智子氏と、出版社担当の坪井義哉氏に話を聞いた。

いまなぜ「グラフの読み方」が必要なのか

『こども統計学』(カンゼン)

ーー『こども統計学』『こどもデータサイエンス』に続く3冊目として、今回「グラフの読み方」をテーマにしたのはなぜだったのでしょうか。

坪井:最初に渡辺美智子先生に監修していただいた『こども統計学』は、小学生のうちから統計の基礎に触れておく必要があるのではないか、という考えから作った本でした。本シリーズの企画者であり著者でもあるバウンド・清水友樹さんからの提案の主旨は、ビッグデータやAIが当たり前になった今、統計はビジネスの世界だけでなく、社会全体で必要とされる基礎知識になっているということにありました。ただ、学校の授業だけでは十分に追いきれない部分もある。そこを子どものうちからきちんと学べる本が必要だと考えたんです。

渡辺:今の親世代が学校で学んでいたときは、算数や数学の中でグラフの作り方を少し習う、という程度でした。けれど今は、データを可視化するだけでは足りません。そこから何を読み取り、どう判断し、どう意思決定につなげるかが問われる時代になっています。そうした社会の変化を踏まえて、データや統計の学習の先にある社会とのつながりを見せる本として提案したのが『こどもデータサイエンス』でした。

 今回の『すごいグラフの読み方』も、その流れの中にある本です。子どもも大人も日常的に接しているグラフを、ただ「見る」のではなくどう「読む」のかに焦点を当てています。

坪井:単にグラフの作り方や種類を覚えるのではなく、「このグラフから何を読み取るべきか」「作り手はどう読ませたいのか」を考える力が必要だと感じたんです。

 特にこの1、2年は生成AIに関する本も一気に増えて、小学生のうちから自然に触れている子どもも珍しくなくなりました。でも、生成AIの回答は当然ながらすべてが正しいわけではない。出てきた情報をそのまま受け取るのではなく、自分で確かめ、読み解く力のベースとしても、「グラフの読み方」は大事なテーマだと思いました。

大人の学び直しにも

『こどもデータサイエンス』(カンゼン)

ーー本書は子ども向けの書籍ではありますが、大人の学び直しにも向いていると感じました。そうした読まれ方も意識していたのでしょうか。

坪井:意識しています。特に『こども統計学』の時は、想像以上に大人からの反響が大きかったんです。「自分たちの世代は子どもの頃にこんなことを学ばなかった」「今の子どもはこういうことから学ぶのか」と驚かれる親御さんが多かった。その流れもあって、今回はカバーに「小学生から社会人まで一緒に学習」というコピーを入れました。

渡辺:大人の側も、会社や行政の現場でデータやグラフに基づいて説明したり、意思決定したりすることが求められています。リスキリングという言葉が広がっているように、大人も学び直しが必要な時代になっています。

 ただ、統計学や機械学習・データサイエンス・AIの本って専門書は色々出ているんですが、いきなりそれを読んでも全体像はつかみにくいのではないでしょうか。そういう意味で、子ども向けに開かれた本が、大人に分かりやすい入り口になると思っています。

批判的思考力を鍛えるために

ーー本で扱う内容は、どのように決めたのでしょうか。入れるか迷ったトピックもありましたか。

渡辺:私はどうしても「あれも必要、これも必要」と考えて詰め込みたくなってしまいます。統計もデータサイエンスもグラフも、本来は全部つながっている話ですから。でも今回は、そこをグラフに絞って、本当に大事なところだけを選んでまとめることができたと思います。

坪井:グラフの種類だけ考えても、世の中には様々なグラフがあります。それらを一つ一つ網羅的に解説するという案もありましたが、教科書や新聞、雑誌などで日常的に目にするのは、やはり棒グラフ、円グラフ、折れ線グラフの3つがほとんどです。そこで、著者の清水さんが、今回はこの3つのグラフをしっかり読めるようにすることを優先した構成を作成しました。サンキーダイアグラムや箱ひげ図のような発展的なグラフについては、コラムで軽く紹介する形にとどめています。

渡辺:本書のポイントは、グラフの「見方」ではなく「読み方」としている所にあります。こういうグラフがあります、知識を伝えます、というのではなく、グラフを裏読みする方法、つまり、批判的思考力を鍛えるための方法を伝えています。

 グラフを見るだけで終わるのではなく、その裏にある背景や意図、文脈まで読む。そのヒントになる項目を詰め込みました。

ーー子どもがグラフやデータに強くなるために、親はどんなことを意識するといいのでしょうか。

渡辺:特別な勉強として構えすぎなくていいと思います。ニュースでも買い物でも、日常の中には数字やグラフがたくさんあります。コロナ禍の報道もそうでしたし、スーパーに行けばランキングもある。そういうものを見ながら、「これはどういう意味なんだろう」「本当にそう言えるのかな」と、大人も一緒に考えることが大切です。

 「勉強しなきゃ」と思ってしまうとなかなか続きません。でも、身の回りには自然に題材があります。親子で一緒に見て、一緒に話して考えることが大事だと思います。統計グラフコンクールのような、親子で夏休みの課題として取り組めるコンクールも全国の鳥取県を除く各都道府県にありますので、ぜひ一度、これまでの子どもたちの作品を見て、気軽にチャレンジしてみてください。

生成AI時代、教育はどう変わっていくのか

渡辺美智子氏

ーー長年、統計教育やデータサイエンス教育に携わってこられて、変化を感じることはありますか。

渡辺:劇的に変わっています。以前は、日本の教育の中では、グラフや統計を問題解決や意思決定に使うという視点がかなり弱かった。海外に比べて大きく出遅れていたと思います。でも今は、官民データ活用推進基本法の制定や「データ活用」領域重視・拡充される学習指導要領の改訂、大学でのデータサイエンス・AI教育プログラムの認定制度、「情報」科目の導入と大学入試での出題など、一気に変わってきています。生成AIの登場で、その変化はさらに加速しています。

 一方で、現場はまだまだ過渡期でもあります。早くキャッチアップしている先生もいれば、何をどう教えればいいのか戸惑っている先生もいる。だからこそ、親も含めて、自分で情報をつかみにいく必要があると思います。

ーー生成AIが急速に広まる中で、親や教育者は何を意識すべきでしょうか。

渡辺:AIは道具です。使う経験がないと、何に使えて、どこが弱いのかもわからない。ですから、ただ恐れて遠ざけるのではなく、まずは使ってみることが大事だと思います。そのうえで、仕組みや限界を理解し、批判的に使えるようになる必要があります。

 ただ、丸投げは違います。親がわかっていないと、子どもの可能性を狭めてしまうことにもなる。どこをAIに任せて、どこを人間が考えるのか。その見極めが必要です。

4冊目をつくるなら?

ーーもし渡辺先生監修による4冊目を制作するとしたら、どんなテーマが考えられますか。

渡辺:今後ますます大事になるのは、「問い」をどう立てるかだと思っています。生成AIが知識を出してくれる時代だからこそ、人間の側が何を知りたいのか、誰のために何を解決したいのかを考えなければいけない。統計やグラフも、その探究のための道具として捉える必要があります。

坪井:実は制作中にも、「設問の立て方」みたいなテーマは話に出ていました。私たちが取り組んできた社会学習シリーズ全体では、日本の学校教育で不足がちであった批判的思考やロジカルシンキングの育成という大きなテーマがベースにあるので、このテーマはすごく自然なんですよね。まだ構想段階ではありますが、十分ありえると思っています。

 データやAIに囲まれて生きる時代に、必要なのは新しい知識をただ増やすことだけではない。目の前の情報をどう受け取り、どう自分なりに疑い、どう考えるか。その考える基礎を、子どものうちから育てていくこと。そして同時に、大人も一緒に学び直すこと。『頭のいい子がやっている すごいグラフの読み方』は、そんな時代に向けた入門書なのだろう。

■書誌情報
『頭のいい子がやっている すごいグラフの読み方』
監修:渡辺美智子
著者:バウンド
発売日:2026年3月25日
定価:1,760円(税込)
判型・ページ数 A5・128ページ

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