大谷翔平の活躍で野球漫画はどう変わる? 『MAJOR』『ダイヤモンドの功罪』……WBC開催を機に考察
野球世界一を決めるワールド・ベースボール・クラッシック(WBC)の存在感が大きくなるにつけ、その熱気は漫画の世界にも強い影響を与えている。
もともと日本の野球漫画は、プロ野球や甲子園という「国内の頂点」を目指すのが当たり前だった。海の向こうにあるメジャーリーグなどは、どこか遠い夢のような場所として描かれることが多かったのだ。
そんな流れをガラッと変えたのが、満田拓也の『MAJOR』(小学館)である。主人公の茂野吾郎が日本のプロ野球にとどまらず、本場アメリカのメジャーへ挑み、さらには16カ国で世界一を争う「野球のW杯」が描かれた。作中ではコジロー(イチロー)、松尾(松井)、野呂(野茂)という実在の選手をモデルにした選手も登場。マイナーリーガーだった茂野は、野呂の故障により代役で代表に選出されることに。160キロの速球を武器にクローザーとして起用されるも、アメリカとの決勝戦では延長16回の死闘の末、ライバルのギブソンJr.にサヨナラ満塁ホームランを喫し、優勝とはならなかった。
そんな『MAJOR』が切り拓いた道の先に現れたのが、現実の世界で漫画のような活躍を見せる大谷翔平だ。プロ野球のカネや生存競争をリアルに描く「グラゼニ」シリーズ(原作・森高夕次、漫画・足立金太郎※)には、王嶋貞雄という選手が登場する。ネーミングこそ、王貞治と長嶋茂雄から拝借しているが、見た目や二刀流というキャラクターはあきらかに大谷がモデル。投打の両方でとんでもない成績を出し、主人公の凡田夏之介を身震いさせる実力差を知らしめた。
※=シリーズによってはアダチケイジ名義
さらに『グラゼニ〜大リーグ編〜』では、物語の舞台がWBCへと移っていく。ベテランになってナックルボールという武器を手にした凡田が日本代表に選ばれる展開は、国際大会の重みをひしひしと感じさせ、作中では代表に選ばれるまでの裏側や、特殊な球を捕るためのキャッチャー選びといった具体的な問題にも触れられている。独立リーグに在籍するキャッチャーが予想外の活躍をする一方、メジャー移籍した村上宗隆がモデルの「上村」が極度のスランプに陥るなど、短期決戦ならではの“アヤ”にも着目しているのがこの作品の面白いところだ。
また、WBCのようなプロの大会だけでなく、若い世代が早くから世界を意識する姿を描く作品も増えている。平井大橋の『ダイヤモンドの功罪』では、U-12世界大会という小学生の国際舞台が物語の大きなポイントに。主人公の綾瀬川次郎は、天才すぎて周りを絶望させてしまう孤独を抱えている。世界一になってなおチームメイトとの間に軋轢が生まれ、思い悩むという“少年視点”は、これまでの野球漫画にはなかった目新しい切り口だ。
二宮裕次の『BUNGO‐ブンゴ‐』でも、中学野球のシニアリーグを舞台に全米選手権という世界大会が描かれた。もう一人の主人公と言える野田幸雄たちがアメリカの有望株と戦い、甲子園や日本のプロ野球の先にある「世界」という基準を肌で感じる描写は、現代の選手たちの感覚に近いだろう。
今の野球漫画は、試合の勝ち負けだけでなく、メンタルやデータ分析といった面からも深く描かれるようになった。それは、ファン自身がメジャーや国際大会の仕組みに詳しくなったからこその変化でもある。
大谷という異次元のスターが現れたことで、物語のスケールはこれからもさらに広がっていくことだろう。3月に開催されるWBCで侍ジャパンが連覇を成し遂げれば、いずれは「世界が日本に挑戦する」漫画が生まれてくるかもしれない。