向井理、ディーン・フジオカ、岩田剛典……『パリピ孔明 THE MOVIE』最もキャラ立ちしているのは?

 大ヒット漫画を原作とする実社化作品を見るときの楽しみ方はさまざまだと思うが、原作ファンならまずは原作に対する忠実度、その再現性が基準になるのだろうか。その点、向井理主演ドラマ『パリピ孔明』(フジテレビ系、2023)は、四葉タトによる原作リスペクトを第一義とした上で、脚本家・根元ノンジの職人的作法が解釈するアレンジ (脚色術)が第1話から実に的確であり、実写化作品が原作世界を豊かに、やわらかく拡張していた。

 「願わくは次の人生は命のやり取りなどない・・・・平和な世界に」と願った諸葛孔明(向井理)が、1800年の時を経て令和の日本、それもハロウィン期間中の渋谷に転生タイムスリップする導入はもちろん、蜀の名軍師が音楽プロデュースするまでの発端もあざやかな映像処理で、原作の展開力がテンポよく息づく。さらに漫画内で図像として描かれる2次元キャラを演じる生身(3次元)の俳優たち誰もが生々しい存在感におさまっていた。『先生のおとりよせ』(テレビ東京系、2022)では漫画原作に挑戦する官能小説家を演じた向井にとってこれは息の長い代表作になるなと思っていたら、当然のように劇場版である『パリピ孔明 THE MOVIE』(以下、『THE MOVIE』)が公開される。

 原作の第13巻まで描かれたドラマ版に対して、オリジナルストーリーとなる『THE MOVIE』では、俳優たちの存在がよりクリアに浮き立ち、躍る。孔明が軍師となって売れっ子に押し上げた歌手・月見英子役の上白石萌歌を筆頭に、ライブハウスのオーナー役の森山未來、原作ではサマーソニア編(第10巻)から登場してドラマでは序盤の第2話で初登場するライバル・前園ケイジ役で、初の悪役を演じた関口メンディー、あるいは孔明が「我が君」と慕う劉備役のディーン・フジオカなど、とにかく原作のキャラクターが実写でも色濃く立ち上がる。その中で誰が最もキャラ立ちしているかなんて難問をあえて浮かべても答えに困るだけなのだけれど、ここは公平に『THE MOVIE』で最初に登場する人物にすればいいのか……。

劉備を3次元に立ち上がらせるディーン・フジオカ

 ドラマ版同様に『THE MOVIE』でも最初に登場するのは孔明かと思いきや、ディーン・フジオカ演じる劉備だった。冒頭場面、酔いどれ兵士たちが劉備を囲んでいる。中央に座る劉備が歌うのは、天下太平を願う曲。5か国語に堪能なディーンが操る中国語歌唱が、バックトラックの一拍目頭と完全に同期するフレージングが心地いい、半ばミュージカルシーン。その幻想的映像は孔明の夢だったという導入展開なのだが、その後も孔明は何度も劉備を夢に見る。

 ドラマ版でも同じような描写が印象的だった。第1話で出会ったばかりの英子が自室でかき鳴らすギターの弾き語りを聞いた孔明が恍惚として思い返す。原作第1巻ではほんの一コマで描かれている。孔明目線で語りかけてくる劉備の断片的映像がフラッシュバック。何カットもインサートされる。孔明目線で劉備を仰ぎ見る姿勢になる視聴者は、何だか「#彼氏とデートなうに使っていいよ」みたいなSNS的仕掛けを感じながら思わず浮かされてディーンにときめく。さらに劉備が竹林をぬって孔明をたずねる場面があり、従者から「先生(孔明)だったら、出かけています」と言われた劉備がふと視線を落とす表情が尊過ぎる(!)。なかなか孔明に面会できない劉備の気持ちをほんの微動でしかない視線移動だけで表現するディーンが色っぽい。

 『THE MOVIE』でもこの色っぽさが一点透視的に強調されながら、前半部で孔明の夢として何度も描かれる。劇場版オリジナルキャラクターであり、孔明のライバル、司馬一族の末裔である司馬潤(神尾楓珠)がプロデュースする妹・shin(詩羽)の歌唱きっかけでより頻繁に夢を見るようになる孔明が英子のレコーディングにたちあう場面では、ついに英子が劉備その人に見える幻想が描かれる。ボーカルブースに静かに入ってきた劉備が英子の代表曲「Count on me」をしめやかに歌う。日本語歌唱のディーンにも惚れ惚れする。劉備がディーンなのか、ディーンが劉備なのか、この強固な連関に対して観客もまた夢うつつ……。原作では数コマほどで描き込まれている劉備をこれほど色っぽく、さりげない外連味で3次元に立ち上がらせる意味では、ディーン・フジオカが最もキャラ立ちした俳優だと思う。

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