『秘密 -トップ・シークレット-』に魅了される理由 サスペンスの根底に流れる人間賛歌

『秘密』を特徴づける科学へのまなざし

 本作の時代設定は21世紀中盤の日本。近未来にした理由は、現在困難なMRIによる映像化を可能にするためと推察できる。フィクションを強調することで、人権や倫理面の問題を回避する狙いもあるだろう。科学へのまなざしは今作を特徴づけるもので、『秘密』第4巻で描かれた列車内の集団感染、『season0』のプリオン病は疫学と医学的な裏付けがある。また、集団催眠や夢診断、無意識の防衛機制など、心理学の知見にも基づいている。

 これらは科学によって光が当たる人間の内面という本作のフレームに不可欠な道具立てといえる。『秘密』を分類するならサスペンスになるが、サイコスリラーや事件ものミステリーの要素もある。本作がそれらのジャンルと一線を画すのは、根底に人間ドラマが流れていることだ。生きていて誰もが経験する出会いや別れ、日常に潜むすれ違いなど、運命が交錯する分岐点が本作には頻出する。

 『秘密』第6巻で、薪は「みんな死んで、もう誰も語る口を持たないから」と語る。真実は死者だけが知っていて、通常は個人の秘密として永久に閉ざされる。捜査のために脳をスキャンすることは、その人の心の中に踏み込むことだ。そこにある喜怒哀楽の感情、美しい思い出、夢想、反対に、悔恨と復讐のどす黒い情念、秘めた恋心、裏切り、痛みをともなう記憶、それらが白日のもとにさらされることになる。

 ドラマ版では原作の世界観を保ちつつ効果的な改変がされている。連続殺人鬼の貝沼をMRI捜査を開発した脳科学の権威にすることで、呪われたテクノロジーの印象が強まった。鈴木の登場シーンも増えている。映画版で取り上げられた露口絹子の事件(第1話)を鈴木在籍時のエピソードに変え、それによって今作のテーマがより明瞭になった。青木と鈴木を一人二役にしたことで、青木との出会いがより運命的な色彩を帯びる。ドラマ版の中島裕翔(Hey! Say! JUMP)は、別の時間軸を生きながら薪の心をつかんで離さない青木と鈴木を、両者の重なり合いを理解して演じ分けており必見だ。

 秘密が明らかになって傷つく人間はいる。MRI捜査を行う薪たちは、この世界を本当に愛せるかという試練を与えられているように見える。秘密の重さに苦しみながら、真実を求め、人間を信じようとするひたむきさに、私たちは魅了される。これ以上の人間賛歌があるだろうか。

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