【漫画】昭和初期、偏屈な小説家と女性編集者の“約束”に涙腺崩壊……切ない読切漫画『椿の四百字』

時代考証をして作品を作ることが楽しい

――まず小説家と編集者の物語にした経緯を教えてください。

澤島:太宰治の『パンドラの匣』をはじめとした小説が好きで、太宰治作品を隙間時間に読んでいた時に、ふと思いつきました。

――そこからストーリーを作り上げていったと。

澤島:はい。私はひたすら紙のノートに描きたいシーン·セリフのメモをしてブレインストーミングして、その後に実際に会話をパソコンで打ち込む、というやり方でストーリーを膨らませていきます。本作も同様にストーリーを練り上げていきました。

――「職業婦人」という言葉が出てくることから、時代は昭和初期だったと思います。なぜこの時代を選んだのですか?

澤島:「“近代日本”という物事が目まぐるしく変化する時代性が現代と重なっている」と個人的に考えています。「近代にも現代と同じ様な苦悩があったのでは?」と思ったことが大きいです。また、「現代で同じテーマを描くと生々しさが拭えず、心的距離が近すぎる」と感じたため、「100年前に置き換えることである程度は俯瞰して見られるのではないか」とも考えました。

――現代との距離感を総合的に検討して、100年前を選んだのですね。

澤島:そうですね。ただ、その時代だからこその制約を受けながら、時代考証をして作品を作ることが楽しいため、20世紀初頭を舞台にした作品を昔からよく描いています。以前、「となりのヤングジャンプ」(集英社)に掲載させていただいた拙作『紫煙と夾竹桃』でも同じ戦前昭和が舞台の作品を描いており、「またこの世界観の物語を描きたい」と思ったことも理由の1つです。

――秋津と八雲というキャラを作るうえでのこだわりは?

澤島:『コミティア』出展に向けて制作した作品であり、当時はあまり時間がなかったです。締め切りに間に合わせるため、「なるべく描きやすいキャラクターで描こう」という思惑があり、秋津も八雲もビジュアルはほぼ手癖で作りました。また、“偏屈な男性と真っ直ぐな女性”という組み合わせが好きなので、性格も手癖になります。

――手癖で描かれたという真逆の性格の2人のやり取りはいつも微笑ましかったです。

澤島:ありがとうございます。自分でも凸凹な2人のやりとりが気に入っています。「エンディングで何か感じ取ってほしい」という思いがあったため、なるべくコメディタッチな表情を散りばめ、ラストとの差が生まれるように心がけました。

――なぜデイジー(延命菊)を本作のキーアイテムとして採用したのですか?

澤島:制作に取り掛かった時のコンセプトが「雨の日に花を買いに行く話」で、転じて「レイニー·デイジー」という仮題で作成していたことが由来です。「お見舞いに行くのであれば、“延命”菊なら想いがより伝わるか」と思って選びました。また、デイジーの花言葉(「純潔」「美人」「平和」「希望」)が好きなことも理由の1つです。

――最初と最後がどちらも「僕は〇〇が嫌いだ」という秋津の語りになっていたのが素敵でした。

澤島:最初と最後のセリフが反復すると、印象に残るかと思い、そのような演出にしました。

――また、トーンの張り方が印象的でした。

澤島:“昭和初期”という時代性を画面でも伝えたかったため、グレーのトーンではなく斜線のトーンなどを使用することを意識しました。ノワール映画のような雰囲気が伝わっていたら嬉しい限りです。

――最後にこれからの漫画制作における目標を教えてください。

澤島:今後も変わらず趣味の漫画も描きつつ、商業誌での読み切り掲載などを目指していく予定です。試行錯誤の毎日ですが、楽しく制作しています。これからも常に新しいテーマにチャレンジしていきたいです。

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