そもそも上手な“炎の能力者”のイラスト、プロの添削で驚きのカッコよさに……ポイントは「情報の取捨選択」
レアカードの高額化も度々話題になる「ポケモンカード」の公認イラストレーターとして多数の人気キャラクターを手がけ、イラスト上達法に関する多くの著作を持つさいとうなおき氏が、自身のYouTubeチャンネルで展開する「添削動画」が人気を博している。
さいとう氏は2019年10月1日、YouTubeチャンネルを開設。イラストレーターを目指す初心者に向けた講座のほか、上達のための具体的なアドバイスを送る「気まぐれ添削」シリーズで人気を高め、130万人のチャンネル登録者を抱えていた。2023年3月に原因不明のチャンネル削除というトラブルに見舞われたが、多くのファンや仲間のイラストレーターの応援を受け、まもなく再スタート。独学でイラストレーターを目指すクリエイターにとって貴重な“教材”となっていた動画も順次「再放送」しており、引き続き注目を集めている。
最新の添削動画は、「説明的な絵になってしまった時は...!?」と題されたもの。キャラクターやシチュエーションをビジュアルで自然に伝えることができず、どうしても「説明的な絵」になってしまうという悩みを抱えていたり、気づかないうちにそういう作品になってしまっているクリエイターは少なくないだろう。どうすれば説明的にならない表現力を身につけることができるのだろうか。
今回取り上げられた作品は、専門学校に通う若手クリエイターによるもの。描かれているのは、投稿者自身が練り上げたオリジナルストーリー『ヴィールス 世界の感染者』の主人公だ。その能力である青い炎をカッコよく描きたい、という動機で制作したもので、「左腕を前に出し、青い炎で牢屋の鉄格子や鎖を燃やし切り、右手で耳にある無線機を使い脱出プランを聞いている」というミッション中の姿を描いている。そのままでも十分に上手いと思える作品で、さいとう氏も「オリジナルストーリーを考えて、その挿絵のようにイラストを描く。そこまでするのはかなり労力がいるはずで、作品に対する熱意がビシビシ伝わってきて素晴らしい!」と評価。その上で、今回の添削のポイントは「情報量が多すぎること」「説明的な絵になってしまっていること」という2点を挙げた。それが問題になり、キャラクターのカッコよさが引き出しきれていないという。
さいとう氏はさっそく、デジタル描画ツールでイラストを添削・調整していく。詳しくは動画を視聴していただきたいところだが、最初に手をつけたのは炎を操る左手。もともと前に突き出すように大きめに描かれていたが、さいとう氏はさらに大きく描き直し、炎の能力で焼き切った鉄格子の一部を握らせた。ポーズの変更に応じて顔の角度を調整し、左腕が画面を横断するように描かれたことで、躍動感が増す。その他、左腕を起点に細やかな調整が行われ、すでに大きくバージョンアップしたように思えるが、さいとう氏は「これではまだ、キャラクターの魅力を引き出しきれていない」という。
キャラクターの魅力を伝えるためには、目に入る情報をあえて制限する必要があるようだ。さいとう氏は、無線を使っている右手に注目。炎の能力を顕現しながら無線の操作までしてしまうと、1枚の絵の中で行なわれている行為が多くなり過ぎてしまう。無理に情報を詰め込んでしまうと、説明的になり過ぎてキャラクターのカッコよさが伝わらないのだという。添削としては、このイラストでは「炎の能力」を見せることに振り切り、右手を炎を出す役割に振り分け直すことを推奨。そのことで、キャラクターが何をしているかが分かりやすくなり、自然とカッコよさにフォーカスされたイラストになった。
今回のイラストを投稿したクリエイターは、真摯に作品と向き合う丁寧な仕事が魅力的だ。牢屋からの脱走というシチュエーションを伝えるために背景も描き込み、鉄格子を溶かした手からは溶解した液状の鉄が滴る。両腕は鎖に繋がれ、耳に仕込まれた無線に手をやっていることから組織の存在も伝わってくる。しかし、今回の場合はその丁寧さがやや裏目に出て、「説明過多」になってしまっていたようだ。さいとう氏の添削でイラストはよりシンプルに、よりカッコよく生まれ変わった。情報の「引き算:をしていく中で、背景には赤い炎が描かれ、能力として行使される青い炎との対比も鮮やかに。追加されたのは鉄格子で、キャラクターの手前に配置し、それを破壊していることが伝わりやすくなった。
漫画もイラストも当然、作者本人はキャラクターやシチュエーションを深く理解しているが、初見の受け手は何の情報も持っていないため、「説明不足」になることも往々にしてあることだ。他方で、今回の動画では「説明過多」も作品の魅力を損なう原因になり得ることがよく伝わってきた。「情報の取捨選択」の重要性について学ぶとともに、劇的なビフォー・アフターをチェックしたい人は、ぜひ動画にアクセスしてみよう。
■参考動画:https://www.youtube.com/watch?v=2R052NzK-tM