悪逆の限りを尽くした悪女の最期は？

　「純然たる悪」として描かれていたにもかかわらず、罪を償っていないのが『封神演義』の妲己だ。抜群の美貌とプロポーションで殷の紂王を骨抜きにした稀代の悪女は、とにかくやることがえげつない。享楽のために民衆を焼き殺したり、人肉を食らったりと王の寵愛をいいことに悪逆の限りを尽くしたのだ。詳しくは描写しないが、「伯邑考のハンバーグ」にトラウマを植え付けられた読者も多いのではないだろうか。

　そんな妲己、一体どんな死に様を迎えるのかと思いきや、ラスボスの「女媧」を欺いた挙げ句にその肉体を乗っ取り、地球と融合。その後、戦いに敗れ滅びゆく女媧と共に消えようとしていた太公望の命を救い、「太母（マザー）」となって太公望を見守ってゆくといったラストを迎えた。あれだけ残酷なことを平気でやっていた妲己の、急な聖母っぷりに戸惑う読者が続出したのも無理はない。

　漫画の中とはいえ、罪を犯したならちゃんと償ってほしい。しかしその理論でいくと「暗殺を生業にしているスパイファミリーのヨルさんはどうなっちゃうの？」などと心配する声もあるため、あまり白黒つけるのも考えものなのだろうか。一方で、「めっちゃ悪そうだったのにそこまでの罪を犯さず、潔く散った戸愚呂弟のカッコよさが際立つ」との意見もあり、「カッコいい悪役」が輝くのもさまざまな“悪いヤツ”が存在するからこそかもしれない。