宝島社、男子高校生に性教育授業を実施 「未来を担う高校生に正しい女性に関する知識を」

 2024年8月29日、東京にある男子校、正則学園高等学校で、宝島社が発行する女性誌10誌、男性誌2誌が合同で行っているフェムテック・フェムケア啓発プロジェクト「もっと話そう! Hello Femtech(ハローフェムテック)」の一環として、性教育特別授業が実施された。この授業は異性の健康課題に関する理解を目的とし、これまで22年11月に同校で、23年9月に聖光学園高等学校(神奈川県)で、24年1月にはサレジオ学院高等学校(神奈川県)で行われてきた。いずれも男子校だ。十代の男子生徒に向けて行われた特別授業には、どんな思いが込められているのか?

 当日、授業に参加した生徒は生徒会のメンバーと、参加を希望した有志を合わせた二年生と三年生の15人。授業前もおしゃべりすることなく、静かに椅子に座って待っている姿が印象的だった。

 授業の進行は宝島社の『大人のおしゃれ手帖』編集長である橘真子さんが、講義は浜松町ハマサイトクリニックの婦人科医師である吉形美玲さんが務めた。まずは橘さんから、宝島社が「もっと話そう! Hello Femtech」プロジェクトを始めたきっかけ、男子校で授業を行うことへの思いが語られた。

左、橘真子さん。右、吉形美玲さん。

 橘さんによると、宝島社が10~60代まで幅広い世代の女性ファッション誌を刊行していること、社員の7割が女性であることから、これまでも女性の身体的な問題や、そのケア方法を積極的に誌面で情報発信してきたという。2021年末からは長らくタブー視されてきた女性の健康問題について話しやすい世の中を目指していくために、雑誌連合の取り組みとして「もっと話そう! Hello Femtech」プロジェクトを開始。また、女性の意識だけが変わっても、男性の理解も深めていかなければ、互いにより生きやすい環境を築いていくのは難しいという思いから、男性の中でもこれからの未来を担っていく高校生に、より正しい女性に関する知識を持ってもらいたいと考え、特別授業を始めたそうだ。

 橘さんの説明のあとに、吉形さんの授業が始まった。今回のテーマは、1「女性の健康問題総論ー性差とライフステージにおける健康課題の違い」、2「生理の始まりー生理について、生理に関連する健康問題ー」、3「生理の終わりー更年期・更年期症状について、閉経に関連する健康問題ー」、4「これからの課題解決法ーフェムケアとフェムテックの活用ー」だ。

 1「女性の健康問題総論」では、年齢による男女それぞれの性ホルモンの推移や、それにともなう健康問題の変化について説明された。2「生理の始まり」では、月経の周期や月経期間のトラブル、生理痛の仕組みや低用量ピルについて詳しく。3「生理の終わり」では更年期とその症状、ホルモン治療について。4「これからの課題解決法」では、女性の生理、妊娠、更年期などライフステージごとの課題をケアするフェムケア、さらにそれらの課題をテクノロジーで解決するフェムテックについて説明された。

 授業はおよそ1時間。男子高校生向けのものであるから、てっきり避妊や性病などがテーマなのかと思っていたがそうではなく、女性のそれぞれの世代で変化する体の仕組みとそれによって起こること、それにどう対処すればいいのかが、実に丁寧に語られた。

 このような内容を選んだことについて、講師の吉形さんはこうコメントしている。

「避妊や生理などありがちなテーマからは少し離れて、女性のライフスパンに沿った全体を知っていただきたいという気持ちがありました。参加された生徒さんは、もうすぐ社会に出ていく年齢です。これからパートナーを得たり、仕事で女性と一緒に働く機会が出てきます。そういうときに女性の体のメカニズムを知っていれば、いろいろと役に立つことがあると思います」

 自分の経験になってしまうが若い頃、つきあっていた女性が生理中でイライラしているのがどうにもわからず、こちらにもイライラがうつってよくケンカになったものだ。もしその頃、女性の体についての知識がちゃんとあれば、相手をいたわることもでき、無用なケンカをすることもなかっただろう。男性と女性が良い関係を続けるためにも、互いの体について知ることは大切なのだ。

 また、学校側もこのような踏み込んだ授業を行うことについては、大きな意義を感じているようだ。授業を担当した正則学園高校の本川太郎教諭からは、「インターネットやSNSが普及し、男女の性に関する情報を入手する方法は増えているが、そのぶん裏付けのない知識が多く出回っています。正しい形でしっかり考えてもらい、理解してもらうには、やはり特別授業で専門家の方に教えてもらうべきだと考えています」というコメントをいただいた。

 そんな思いが伝わったのか、授業中の生徒たちの表情は真剣そのもの。授業が終わり、質問タイムに入ってからも「女性が生理でつらいときに、男性にしてほしいことはなにか」などの質問が、盛んに出ていた。

 普通に生活していたら、なかなか知る機会のない情報が詰まった今回の授業。終了後、生徒に今回の感想を聞いてみると、「低用量ピルを飲むと、生理がなくても女性ホルモンは分泌されるので、体の不調は訪れないっていうのは、初めて知りました」「更年期で自律神経が乱れることは聞いたことがありましたが、発汗やホットフラッシュは知りませんでした。僕の母も50代なので、そういうことあったのかなって、考えていました」など、初めて知る情報から、考えることは多かったようだ。

 相手を思い、いたわりあえる関係を築くには、まずは相手を理解することが必要だ。男性が女性ではない以上、そのためには学び、話を聞かなければならない。これからさらに広い世界へ出ていく正則学園高校の生徒たちが今回の授業で得た知識は、きっと役に立つはずだ。

 正則学園高校では11月2日に行われる文化祭で、全校アンケートをもとにした「17歳男子のリアルな女性への疑問。性の現状(仮)」という展示が行われる。今回の特別授業を経たことで、より充実した展示内容になるだろう。

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