『写らナイんです』『彼女はNOの翼を持っている』『雷鳴りて春来たる』漫画ライター・ちゃんめい厳選! 8月のおすすめ新刊漫画

 新刊コミックの中から、おすすめの作品を紹介する本企画。漫画ライター・ちゃんめいが厳選した、いま読んでおくべき3作品とは?

『写らナイんです』コノシマルカ

 夏といえばホラー!  だけど、ふとした瞬間に怖~いシーンが蘇ってしまうガチすぎるホラーはちょっと......なんて方におすすめしたいのが『写らナイんです』だ。

 主人公は、超霊媒体質の黒桐まこと。視えてはいけないものを引き寄せてしまい、周囲に危害を及ぼしてしまうことから孤独な学校生活を送っている。だがそんなある日、全く霊感がないにも関わらずオカルト部に情熱を捧げる橘みちると出会ってしまう。

 オカルト部の全国大会優勝を目指して(この時点でもう面白い)、そしてとある理由から絶対に心霊写真を撮りたいがために、超霊媒体質のまことを入部させたいみちる。一方で、霊感がなさすぎるあまりどんな悪霊も一瞬で消し去ってしまう彼女の能力に興味を持つまこと。こうして利害と興味が一致した(?)霊に追われる少年と霊を追う少女による、世にも奇妙なオカルト青春劇が幕をあける。

 霊が視える少年と霊が全く視えない少女という斬新なボーイミーツガール設定もさることながら、とにかくホラーとギャグの応酬が天才的すぎる本作。例えば、まことの視点で描かれるこの世界は禍々しい怨霊だらけでおぞましい。だが、そんな恐ろしい情景もみちるが現れると途端に吹き消される。それも特別に何かをするのではなく、彼女の持ち前の天然さ、真っ直ぐさでいとも簡単に跳ね除けてしまうのだ。その拍子抜け感がなんとも癖になるし面白い。

 また、苦楽(心霊体験)を共にすることで深まっていく2人の友情は、青春物語として胸がぎゅっとする感覚があり、ページをめくるたびに自分は怖がっているのか笑っているのかときめいているのか........。とにかく感情が忙しい本作。怖いだけじゃない、いや、怖くても最後には笑いと青春の輝きでぎゅっと包み込んでくれる唯一無二の作品だ。

『彼女はNOの翼を持っている』ツルリンゴスター

 嫌なものは素直に嫌だといった方が良い。そんな「NO」の存在を頭では理解しているけれど、じゃあ実際に行動に起こせる人はこの世の中にどれくらいいるんだろうか。例えば、会社の同僚や上司、パートナーや家族間で「NO」を突きつけたい場面に遭遇したとしても、空気を壊したくない、人に嫌われたくない.........そんな思いでうやむやにしてしまったり。あるいは周囲に流されて自分の「NO」を見過ごしてしまうことだってある。

 『彼女はNOの翼を持っている』とは、そんな「NO」をなかなか言えない、うまく咀嚼できない人にすすめたい作品だ。主人公は、自分はもちろん周囲の人たちの「NO」の声に真摯に耳を傾ける高校生・つばさ。そんな彼女が、なかなか「NO」といえない人たちの想いや関係性のもつれを少しずつほぐしていく。

 例えば、生理痛がきついけどこれくらい我慢すべき? 周りが急にメイクを始めたから私も? といった女子生徒のモヤモヤから、男友達の下ネタがエグすぎてついていけないけど適用にやり過ごすべき? といった男子生徒の悩み。そして、生徒への性教育を巡り、上の決定に流されそうになりながらも、生徒たちのことを第一に考えて抗おうとする教職員の姿。さらには、親族の集まりでお酌は必要なのか? と問うつばさの母など。本作では、あらゆる世代やコミュニティの「NO」を丁寧に掬い取る。

 ただ、本作はそういったたくさんの「NO」をつばさが直接的に解決する物語ではない。なぜ嫌なのか? どうすれば良いのか? …….時には大人や友達の力を借りながら一緒に「NO」と向き合い思考していく物語なのだ。そんな彼女の姿を見ていると、どんな瞬間でも自分が抱いた「NO」は絶対に手放してやるもんか、と心に火が灯るような感覚がある。例えすぐに状況が変わらなくても、この「NO」を持ち続けることは、きっといつか自分はもちろん、誰かを照らす光になるかもしれないから。

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