『東リべ』和久井健「週刊少年ジャンプ」で新連載の衝撃 漫画編集者が語る“大型移籍”の理由と抜群のマッチング

 『東京卍リベンジャーズ』の和久井健が4月15日発売の「週刊少年ジャンプ」で新連載『願いのアストロ』をスタートすることが明らかになり、漫画ファンに衝撃が走った。「週刊少年マガジン」で2022年11月まで連載された『東リべ』は、現在もスピンオフ作品が好調で、アニメや映画というメディアミックスも進んでいる超人気作だ。いわばライバル誌の看板作家が前作の勢いもそのままに参戦する格好で、否が応でも注目が集まる。

 今回の“大型移籍”はなぜ実現したのか。漫画編集者で評論家の島田一志氏は、その理由のひとつとして「ジャンプ編集部の編集方針の変化」を挙げる。

「『○○先生の作品が読めるのはジャンプだけ!』というフレーズがよく知られているように、ジャンプは漫画家の専属制度で成功してきました。もともとは『週刊少年サンデー』や『週刊少年マガジン』の後続の雑誌であり、看板作家を引き抜くことが難しいため、一から作家を育てることに……という逆転の発想だったと言われていますが、ジャンプは実際、独自に多くの人気作家を生み出してきた。素晴らしいことです。

 一方で、他誌出身の人気作家による連載といえば80年代、講談社『モーニング』で『BE FREE!』をヒットさせた江川達也さんの『まじかる☆タルるートくん』がありますが、それほど多くの例があるわけではなかった。それが近年で変わりつつあり、例えば『約束のネバーランド』の作画を手がけた出水ぽすかさんはもともと小学館系ですし、『Dr.STONE』の作画を担当したBoichiさんは、少年画報社『ヤングキング』で『サンケンロック』、講談社『ヤングマガジン』で『ORIGIN』をヒットさせた人気作家です。現行のヒット作では『アオのハコ』の三浦糀さんも『少年マガジン』出身。ジャンプ編集部は2023年の11月~12月、同業他誌で連載経験のある漫画家に向けた説明・相談会を開いており、門戸を開く流れがありました」

 とはいえ、単純に「人気作家を引き抜いてきた」という印象はないと、島田氏は指摘する。「どんなビッグネームでも、ネームがつまらなければ掲載されないのがジャンプ」だからだ。

 「ジャンプ編集部の方と話すと、共通して聞くのが『作家の名前で掲載を決めることはない』ということです。今回の連載も、和久井さんが持ち掛けたのか、編集部が依頼したのかはわかりませんが、純粋にネームが面白かったことは間違いないでしょう。そして、現状で明らかになっている“異能×アウトロー”という新連載の内容は、まさに『週刊少年ジャンプ』にドンピシャだと言えます」

 「ジャンプ」にアウトロー作品のイメージはないかもしれないが、キャッツアイや冴羽獠も、男塾塾生も浦飯幽助も、『ジョジョ』の主人公たちも、緋村剣心も桜木花道も、もともとアウトローに他ならず、現在「ジャンプ」の大看板を背負っているモンキー・D・ルフィは海賊だ。最初から清く正しいヒーローというより、信念を持ったアウトローたちが「ジャンプ」を牽引してきた。大空翼や竈門炭治郎は、むしろ異質と言えるだろう。

 「『東京卍リベンジャーズ』の主人公たちが理想とした“不良”とは、反社会的な存在ではなく、既成のルールに縛られない、自分たちが正しいと思う道を歩んで行く男たちのことだったと思います。そしてそれは、これまでジャンプに掲載されてきた数多のアウトロー漫画とも通じるテーマではないでしょうか」(島田氏)

 そしてもうひとつの要素である「異能バトル」こそ、「ジャンプ」のお家芸だ。

 「山田風太郎の『忍法帖』シリーズに端を発する異能×集団バトルは、『リングにかけろ』から『ジョジョ』、『HUNTER×HUNTER』、『呪術廻戦』に至る『ジャンプ』の黄金パターンです。『東リべ』を読めば和久井さんの少年誌適性は証明されていますし、ヒットの可能性は極めて高いと思います」

 とはいえ、「作家の名前で掲載を決めない」だけでなく、どんな人気作家の連載でも、読者アンケートがふるわなければ容赦なく打ち切られるのもまた「少年ジャンプ」だ。果たしてこの話題作が順当に大ヒットを飛ばすのか、まずは4月15日発売号に掲載される第一話を楽しみにしよう。

関連記事