Netflix『三体』原作改変がすごいと話題 ハードSFがド級のエンタメに……SFが苦手な人こそオススメな理由

主人公とストーリーを大胆にアレンジ

  原作の『三体』とNetflixドラマには、さまざまな設定の違いがある。そもそも「オックスフォード・ファイブ」自体がオリジナルキャラクターであり、原作の1巻で主人公を務めるのは汪森(ワンミャオ)という男性だった。

  代わりにNetflix版のシーズン1で主軸となるのは、ナノテクノロジー研究者の俊英であるオギー・サラザール(エイザ・ゴンザレス)と、理論物理学者のジン・チェン(ジェス・ホン)で、いずれも女性。「オックスフォード・ファイブ」の仲間たちと厚い友情で結ばれている一方、恋心がこじれた人間関係も発生している。

  原作は科学の用語が飛び交うハードSFでありながら、登場人物たちの心に生々しく迫った人間ドラマであることが大きな魅力だが、Netflix版は後者の要素を膨らませることで、よりとっつきやすい物語へと視聴者を導いている。また、主要キャラクターの人種と性別の幅を大きく広げたことも、グローバルな市場を見据えた改変として、すぐれたアイデアと言えるのではないだろうか。

  その一方で、むやみに設定を改変しているわけではなく、作品の核となる部分はしっかり押さえていることにも注目したい。Netflix版は原作と同じく、1960年代の中国における文化大革命の描写から始まり、葉文潔(イエ・ウェンジエ)という人物が物語に大きく関わってくる。

  この過去編は、原作では冒頭約50ページにわたって描かれているのだが、歴史的な背景が重くのしかかってくるため読み応えがあり、葉文潔を理解するために必須のエピソードでもある。しかしいわゆるSFらしい出来事が起こるわけではなく、メインストーリーとのつながりも最初は分かりにくい。中には、ここで躓いてしまう読者もいるようだ。

  それに対してNetflix版では葉文潔をめぐるエピソードを押さえつつも、序盤から現代パートの描写が展開。死んだ科学者の部屋に血文字で数字が羅列されていたり、突如オギーの視界にカウントダウンが表示されたりと、分かりやすい世界の異変が次々と起きていく。視聴者がすぐに物語にのめり込めるように、工夫のかぎりが尽くされているという印象だ。

  序盤以外でも、テンポがよくなるように大胆な脚色が行われているため、原作ファンの中には受け入れがたいという人もいるかもしれない。だが、最初に『三体』に触れる入口としては、この上なく親切で刺激的な作りになっているように思われる。

  なお、Netflixで現在配信されているのはシーズン1のみで、全8話で終了しているが、評判がよければ続編も制作されるという。気になった人は、2024年最大の大作ドラマを1話だけでも視聴してみてほしい。

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