【第一話掲載】ドラマ化で話題! 凝り固まった心をほぐす『おっさんのパンツがなんだっていいじゃないか!』の奥深い魅力

※記事の最後にマンガ『おっさんのパンツがなんだっていいじゃないか!』本編を掲載しています。

 誰もがありのままで、自分に正直に生きられたら素晴らしい。けれど、固定観念や偏見はどこにでも存在し、無自覚に人を傷つけることもあれば、自意識過剰に傷つくこともある。「多様性」について考えれば考えるほど、最も簡単で究極の解決策かもしれない「無関心」に行き着いてしまいがちだが、それとはまったく違うやり方で、アタマとココロをほぐしてくれる作品がある。電子コミックサービス「LINEマンガ」で好評連載中(※本編は完結。現在は番外編が進行中)で、現在ドラマも放送中の話題作『おっさんのパンツがなんだっていいじゃないか!』(練馬ジム)だ。

 ドラマ版では原田泰造が演じている主人公・沖田誠は、古い価値観にとらわれ、偏見で凝り固まった“おっさん”だ。例えば、会社の女性社員に「上司にお茶くらいスッと持って来れないようじゃ、嫁に行きそびれるぞ?」なんて言い放ってしまうような、無自覚にハラスメントを撒き散らすタイプ。息子に“男らしさ”を強要して引きこもる原因をつくり、妻や娘からもほとんど愛想を尽かされている。それでも、根は真面目で家族思いーー『おっパン』は、そんな誠が価値観をアップデートしていく物語だ。

 きっかけは、引きこもりの息子・翔を気にかけてくれるゲイの青年・大地との出会いだ。大地が家に来ていると聞き、普段は入れてもらえない翔の部屋に押し入った誠は、久しぶりに見た息子の姿に複雑な感情を覚えながらも、大地にひどい言葉を投げかける。「君といて翔にゲイがうつったら困る」ーーその言葉に怒るどころか、思わず吹き出してしまうのが大地という青年だった。

 価値観を更新することは、きっと年齢を重ねるほど難しくなっていく。生まれ育った時代や環境の影響も大きく、作中に登場する「俺だって、好きでこんな自分になったんじゃない」という言葉が痛い。会社でも家庭でも鼻つまみ者になり、愚痴る相手もなく孤立していた誠ーーそんな彼に初めて正面から向き合い、「排除」とも「無関心」とも違うやわらかなコミュニケーションをとってくれたのが、他でもない、自身があまりにも侮辱的な言葉をぶつけた大地だったのだ。

 そこから誠がどう変化していくかは、ぜひ実際に作品を読み、ドラマを観ていただきたいところだが、本作が扱うのはジェンダー・アイデンティティにかかわる問題だけではない。ギャルも高校球児も、同人作家もプレイボーイも、みんな「自分らしさ」に悩みながら、誰かの心を助け、誰かに助けられている。そんな当たり前のことが、驚くほどすんなり胸に沁みてくるのが『おっパン』という作品だ。「他者に寛容であるべきだ」というのは誰にでも主張できることだが、「自分は寛容だと思い込み、調子に乗って人を傷つける」ことにまで目を配る懐の深さも見逃せない。

 「多様性」という言葉に説教くささを感じてしまう人もいるかもしれないが、『おっパン』にそれを感じないのは、おそらく豊富なユーモアと作者の大らかさによるところが大きいだろう。ドラマも好評だが、漫画やアニメのパロディを豊富に含むオタク的楽しさも全開な原作もおすすめだ。最初は誠の“無理解なおっさん”ぶりにヤキモキするかもしれないが、“神アプデ”を繰り返す彼がどんどん好きになるはず。まずはタイトルの意味が回収される16話まで読んでみてはいかがだろう。

『おっさんのパンツがなんだっていいじゃないか!』

ⒸZim Nerima/LINE Digital Frontier

作品URL:https://lin.ee/71qYgEe/pnjo
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