『東京リベンジャーズ』黒川イザナはなぜ歪んでしまったのかーーアニメ最終回を前に“孤独の王”を深掘り

※本稿は『東京卍リベンジャーズ』のネタバレを含みます。原作未読の方はご注意ください。

 暴力(チカラ)で全てをねじ伏せる最凶の王、黒川イザナ。遂に『東京卍リベンジャーズ』アニメ三期は最終盤へと差し掛かり、彼に隠された秘密と、天竺との決着が最大の見どころとなっている。「天竺編」には最後に驚きの結末が待ち受けており、非常にドラマチックな展開が胸を熱くさせる。ネタバレを避けるためオチは絶対に言えないが、最後までしっかりと見届けていただきたいところだ。

 今回は章のメインとなったイザナについて深掘りしたい。ようやく謎が明かされたキャラクターの“孤独”を極悪(きわめ)た真の理由へと迫っていこう。

イザナ最大の秘密、それは……

 「天竺編」の序盤において黒川イザナは、

・エマとは血の繋がりがある兄妹
・真一郎とマイキーとは異母兄弟

 であるという話だったが、実はエマの母・黒川カレンの元夫とフィリピン人の前妻の間に生まれた連れ子で、佐野家の人間とは一切血の繋がりはない。イザナ自身はこの件を聞かされていたが、エマやマイキーは知らなかったため、タケミチやドラケンへ「兄弟」と話した。マイキー自身も異母兄弟だったのを忘れかけていたレベルなので、真実を把握していない2人にとっては、そう“重すぎる事態”ではなかったのだろう。

 隠された秘密を知るのは真一郎だけ。血の繋がりがないながらも家族同様に接し、本当の弟のように可愛がるものの、優しさがイザナをより傷つける結果となり、歯車は悪い方向に回り始めてしまう。

裏切りと孤独が心を歪ませていく

 心の拠り所は真一郎だけ。秘密を知るのは自分のみと信じ、家族同然のように接する彼を本当の兄弟として慕っていた。けれども真一郎が真実を知っていること、そして黒龍を自分と「マイキーという見知らぬ人物」に継がせたいという意思が、イザナにとっては理解ができない。

 真一郎は自分だけのものだと思っていたイザナ。彼からするとマイキーは後からやってきた存在で、言ってしまえばただの他人。しかし、真一郎が口にする“弟”には佐野家の血が流れているのだ。自身に血の繋がりがない点を後ろめたく思うイザナは、立場を奪われたような気分になったのだろう。何をしても本物の兄弟には勝てないと己の運命を呪い、真一郎の行為が裏切りのように見えてしまう。

 親に愛されずに育ったイザナの心にはぽっかりと穴が空いている。既に作られた穴を広げるのは非常に容易で“兄”の親切心が仇となり、彼の孤独を極める原因となった。他人へ絶望し、運命に絶望し、寂しい気持ちを埋めるために歪んだイザナは非行へと走り行く。

もし黒川イザナという人間に悲しみが降りかからなかったら

 もしイザナが温かい家庭で真っ直ぐに育っていたらマイキーとの敵対関係もなく、今ごろ「天竺」なんてチームも誕生しなかったはず。あくまで想像にすぎないが、黒龍の総長はイザナ、副総長はマイキーで……という話も有り得たかもしれない。2人が揃い、真一郎がいれば自ずとイヌピーやココも集まってくるだろう。我々が見知らぬ全く新しい形の黒龍が実現するケースを想像すると、ちょっと見てみたいような気もする。

 または灰谷兄弟や河田兄弟のように、異母兄弟としてのコンビで不良界に名を轟かせる可能性も考えられた。いずれにしてもそれぞれ不良の道へ入ることは避けられなそうだが、幼少期のイザナに深い悲しみが降りかからなければ、現在の世界線には至らなかったように思う。イザナもマイキーも強い者同士のぶつかり合いはあれど、今より最悪の事態には発展しなかったのではないか。

 神様は時にイジワルで、乗り越えるのが辛い試練を人間へと与える。イザナは正に運命のいたずらに巻き込まれた存在。どこかで道を踏み外さなければ、喧嘩と暴力に気圧(テンション)が上がる人間にはならなかったと、勝手ながら筆者は心を痛めてしまうのだ。

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