『葬送のフリーレン』勇者ヒンメルは本当に強かったのか? 明かされた恐るべき精神力と研ぎ澄まされた感覚

※本稿は『葬送のフリーレン』のネタバレを含みます。原作未読の方はご注意ください。

 大ブレイク中の漫画&アニメ『葬送のフリーレン』。原作の連載100回を記念して行われた人気投票で、勇者ヒンメルが第1位に輝いた。悠久の時を生きるエルフである主人公・フリーレンに、“たった10年”の付き合いで大きな影響を与えたヒンメルは最高に魅力的なキャラクターだ。

 しかし、その「強さ」についてはこれまで、あまり具体的に描かれてこなかった。世界を滅ぼす厄災を打ち払う者のみが抜くことができるという「勇者の剣」を引き抜くことができなかった、というエピソードもあり、柔らかな存在感で勇ましさを感じさせないヒンメル。しかしフリーレンは、「本物の勇者」だと断言する。ヒンメルは「魔物を打ち倒す勇ましい者」というより、「人々を明るく勇気づける者」という意味で「勇者」という言葉がしっくりくるが、本当に強かったのかーー。

 そんな問いに対する答えの一端が、12月13日に「サンデーうぇぶり」でも公開された第118話「フィアラトール」で明らかになった。続く119話も感動的だが、118話は作品全体を考えても極めて印象的なエピソードだ。

 魔王城を目指す旅の途中、「女神の石碑」の力により、勇者パーティーで冒険をしていた当時に意識を飛ばされてしまったフリーレン。それを察知した大魔族たちが、フリーレンを未来に戻すまいと襲いかかる。「奇跡のグラオザーム」の精神魔法により、ヒンメルはフリーレンとともに、いわば夢の世界に囚われてしまう。それがふたりの結婚式である……というのがエモーショナルだったが、両名ともそれが現実でないことを看破していた。しかし、卓越した魔法使いであるフリーレンですら、その空間を打ち破る糸口、違和感をまったく見出せず、グラオザームの魔法を「まさに奇跡だ」と評した。

 詳細は実際に読んでいただくとして、一方のヒンメルは、幻影に囚われたままわずかな違和感を手繰り寄せ、感覚だけで剣を振るい、グラオザームを撃退。フリーレンは「お前は甘く見過ぎたんだ。持たざる者の研ぎ澄まされた感覚を」と、魔法使いや魔族のように魔力に頼ることができないゆえに磨き抜かれた、いわば“人間の力”を讃えている。

 ヒンメルには、フリーレンのような圧倒的な魔力も、僧侶ハイターのように呪いを弾き返す女神の加護も、戦士アイゼンのような強靭な膂力もない。少なくとも現状では、必殺の剣術なども明かされていないため、「世界を救った」という事実だけが彼の強さを物語っていたが、今回のエピソードで、恐るべき精神力と研ぎ澄まされた感覚(これはセンスと努力の両方によるものだろう)を持っていることがわかった。絶体絶命の状況でも、誰一人欠けることなくヒンメルを信じて疑わない様子が、その凄みを強調している。

 思い返せば、アニメ第5話「死者の幻影」で、ヒンメルを象徴するエピソードがあった。フリーレン一行が立ち寄った村で、村人が幽霊に連れ去られるという事件が発生。すでにこの世を去った大切な人の幻影を見せることで、人間を誘き出す魔物の仕業だということに気づいたフリーレンは、さっそく退治に向かう。ここで重要なのは魔物を圧倒する「魔力」や「腕力」ではなく、大切な人を撃ち抜く「覚悟」だ。

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