『東京リベンジャーズ』“泣き虫のヒーロー”は読者も救った? 主人公・花垣武道の魅力をあらためて考察

 ここ数年漫画を読みながら思うのが、主人公の在り方に変化が起きているということだ。少し前なら主人公とサブキャラクターの線引きを非常にはっきりさせた作品が目立ったが、近頃は主人公と言えそうなキャラクターが複数人いたり、作中に登場しない時期が長く続いたりと、様々なパターンが増えた。“多様性の時代”が漫画の主人公にも訪れているのかと納得しつつも、物語の中心となるべき主人公の影があまりに薄い作品に触れていると、少し寂しい気持ちにもなる。

 その点、アニメや実写映画も大ヒットを記録している『東京卍リベンジャーズ』の花垣武道(タケミチ)は、サブキャラクターの魅力を際立たせながら、その陰に隠れずしっかり主人公をしているのが印象的だ。キャラクターとして圧力が強くないため共感しやすいタケミチは、私たちの懐にスッと入り込み、見せ場でしっかり感動させてくれる。本稿では、あらためてそんなタケミチの魅力に迫りたい。

現代のタケミチは、親近感を覚えるリアルな大人の姿

 作品を楽しむにあたって欠かせない要素が、「共感/感情移入」。読者は主人公の言動に意識を向け、鑑賞中は彼らと一瞬でもシンクロができなければしっくりこない。つまり、主人公があまりに突飛すぎると、多くの場合、受け手は置いてけぼりを食らってしまうのだ。

 初登場時のタケミチは見事なまでのダメフリーター。何をやっても続かずパッとしない日々を送る27歳という、少年漫画の主人公に相応しいとは思えないキャラクターと言えよう。

 ただ現実を生きる我々にとっては、身近で共感を覚えるリアルな存在感がある。どこにでもいるような凡庸さで、彼が現状に満足していないのもこちらが感情移入できるポイントだ。タケミチほどの困った毎日ではなくても、何者にもなれない自分に焦燥感を覚える若者は少なくないからだ。

 タケミチという存在が立体的になる理由には、年齢も関係するだろう。彼が20代前半くらいなら「人生はこれから」「いくらでも巻き返せる」と簡単に言えるのだが、27歳という絶妙さ。30代を目前にして“このままではヤバそう”と危機感を覚えさせる設定も、もともとスーパーヒーローではないタケミチに親しみやすさを抱く要素の一つだ。

ダメフリーター生活が一変する挑戦と覚悟の日々

 ついさっきまで味気ない日々だったのが、タイムリープを遂げてから未来を変える大きなミッションへ挑戦する流れになり、ダメフリーターからの変化が凄まじい。自分のことで手一杯だった青年が誰かのために奮闘するのは極めてハードなことだと思うが、ダメな自分を自覚していたタケミチは覚悟を決めて一歩を踏み出す。「自分だったらその決断を下せるだろうか?」ーーと、読者は自らに置き換えて考えてしまうため、尊敬の念を抱くはずだ。

 マイナスからのスタート。タケミチは不器用で喧嘩も強くない。心の根っこは弱虫なのに、ただがむしゃらに走り回る姿には、誰もが感動することだろう。なんだかんだで周りに愛され、道を外れた不良の心を激しく揺さぶるのも頷ける。

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