映画『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』の前身『墓場鬼太郎』の魅力 人間の本質を鋭くえぐる不気味な世界観

 水木しげる生誕100周年記念作品として、完全新作での長編アニメーションである映画『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』が公開されてファンからは大きな注目を集めている。そんな中で注目したいのが『墓場鬼太郎』だ。『ゲゲゲの鬼太郎』のプロトタイプと言われている漫画で、作者の水木しげる氏が1960年代に出版していたものだ。

『ゲゲゲの鬼太郎』は人間のために妖怪と戦うが、『墓場鬼太郎』は助けを求める恩人を見捨てるなどキャラ設定もまるで違う。しかしいわゆる“大人が楽しめるアニメ”としてなかなか人気のある本作。今回は『墓場鬼太郎』の魅力について掘り下げてみよう。

薄気味の悪い笑い方をする『墓場鬼太郎』……

 『墓場鬼太郎』は1960年代に複数の出版社をまたいで貸本出版された作品である。2008年にはノイタミナ枠でアニメ放映されたことで話題を呼んだ。『ゲゲゲの鬼太郎』の前身漫画ということもあり、鬼太郎をはじめとして目玉親父やねずみ男など共通の登場キャラも多い本作。しかしその設定は『ゲゲゲの鬼太郎』とはだいぶかけ離れている。

  現在慣れ親しまれている『ゲゲゲの鬼太郎』は“正義の味方”という印象が強くないだろうか? 人間に危害を加える妖怪と戦う・あるいは中立の立場で仲介させようとするキャラクターだ。一方『墓場鬼太郎』は常に不気味さをまとい、何を考えているのかわからず人を不安にさせる要素がある。実際に人間を裏切ったり見捨てたり、金儲けに目がくらんだりするシーンが多い。「人間ってちょっと……面白い生き物ですね」と呟いて不気味に笑う鬼太郎にゾッとしてしまう。

 ちなみにノイタミナ枠で放映された『墓場鬼太郎』で鬼太郎役を務めたのは野沢雅子氏。「陰鬱な鬼太郎のキャラを見事に表現していてさすが!」という声も多く聞かれた。主題歌は電気グルーヴが担当し、本作の雰囲気を掴んだセンスある楽曲とポップな作画との相性にも注目が集まった。

 『墓場鬼太郎』のアニメ第1話では、幽霊族の唯一の生き残りである鬼太郎が誕生するエピソードが綴られている。幽霊夫婦の隣に実家を持つ水木という男が、亡くなった幽霊夫婦の妻を埋葬するも、そのお墓の中から鬼太郎が生まれる。水木は気が動転して鬼太郎を投げてしまい、それが原因で墓石の角に片目をぶつけて隻眼となってしまう。恐怖で一度は墓場を離れたものの、罪悪感から鬼太郎を引き取り育てることにする水木。しかし最終的に鬼太郎に見捨てられて命を落とす運命をたどる――。(原作とアニメでは設定等が多少異なる)

人間の本質をついているのは『墓場鬼太郎』の方?

 『ゲゲゲの鬼太郎』があまりにもヒーローものに近すぎるため、余計に不気味さがクローズアップされがちな『墓場鬼太郎』。しかし、子供を思う気持ちが強すぎて目玉だけで生き返りを果たす目玉の親父や、行方不明になった水木の仇を取るために鬼太郎を突き落とす幻覚を見る母親の気持ちは“子を思う親の愛”からくるものだろう。

 本作は人間の「醜い部分」・「弱い部分」が存分に描かれている。生まれたばかりの鬼太郎を投げ飛ばして逃げる水木や、夢を絶たれて自ら命を絶つ寝子(猫娘の原型といわれている)のエピソードなどは、限界を突き付けられた人間が起こす恐ろしい行動だ。戦争を経験した水木氏だからこそ描けた世界なのかもしれない。

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