見取り図・リリー「母子家庭だったけど、僕は全然幸せだった」 MOE絵本屋さん大賞で注目『ももからうまれたおにたろう』に込めた想い

 お笑いコンビ・見取り図のリリー氏にとって初めての絵本『ももからうまれたおにたろう』(サンマーク出版/9月15日刊)が、12月28日に発表された「第16回MOE絵本屋さん大賞2023」の新人賞第5位入賞を果たした。

 岡山県出身というリリー氏は、『桃太郎』を題材に絵本を作ることは、ある意味で必然だったという。子どもの頃から絵が好きで美大に進学し、美術の教員免許も有するリリー氏。念願だった絵本を制作するに至った背景や、一冊に懸けた思いを存分に語った。

桃太郎は岡山県出身者にとってなじみ深い

――リリーさんは岡山県出身だそうですね。岡山県のシンボルといえば、岡山駅前にも銅像が立つ『桃太郎』です。リリーさんが桃太郎を題材に選び、『ももからうまれたおにたろう』を制作したのは、やはり出身地と深い関係があるのでしょうか。

リリー:おっしゃる通りで、僕が岡山県出身だからです。岡山は桃太郎以外、他にアイコンになるものがそんなにないんですよね(笑)。それゆえでしょうか、県民はみんな桃太郎を心のどこかで寄りどころにし、誇りにも思っているはずです。そんなこともあって、最初に絵本を作るときに出てきたアイディアが桃太郎でした。

――本の帯には、絵本作家として活躍されているキングコングの西野亮廣さんからのコメントが。同じお笑い界出身の絵本作家として影響された部分や、アドバイスを受けた点などはありますか。

リリー:西野さんの影響は大きくて、実際にアドバイスもいただきました。実は、最初に考えたアイディアでは、桃そのものが主人公だったんですよ。桃を擬人化して、めっちゃかわいらしい要素を加えたら人気出るんちゃうかな?と思いました。それを西野さんに見せたら、「全然わかっていない!」「愛情をもってキャラをつくれ!」「主人公の設定は自分を重ねて考えろ!」と言われてしまって(笑)。

――それで、もう一度ゼロから練り直したわけですね。おにたろうのキャラクターには、リリーさんご自身を投影した設定はあるのでしょうか。

リリー:僕はずっと母子家庭だったんですよ。そのせいか、子どもの頃は周りから気を使われることがあったのですが、僕は全然幸せだったんです。だから、おじいさんとおばあさんに拾われずに鬼ヶ島に流れていっても、幸せになる道はあるんじゃないかと。そうやって自分を重ね合わせたら、おにたろうの設定ができあがりました。細かいストーリーは意見をもらいながら内容を膨らませていきました。

おにたろうの絵柄が生まれた理由

――はじめての絵本とは思えないほど完成されていますし、絵もかわいいです。リリーさんは子どもの頃から絵を描くのがお好きだったのでしょうか。

リリー:絵は大好きで、気づいたら描いていましたね。小学生の頃は『ドラゴンボール』の絵ばっかり描いていたかな。僕たちの世代って、『ドラゴンボール』がクラスの会話に欠かせない存在で、孫悟空の絵がかっこよく描ける人は尊敬される風潮があったんですよ。僕は、めちゃくちゃうまい側でしたね(笑)。

――私も悟空の絵をよく描いていましたので、凄く共感できます。とはいえ、今回の絵本の絵柄は悟空とはまったく別物ですよね。

リリー:そこは単純に、絵本を描くうえでは、劇画タッチよりもかわいいほうがいいと思ったので(笑)。おにたろうの絵がシンプルな丸や線で構成されているのは、『ドラえもん』みたいに子どもたちが描きやすいほうがいいと思ったからです。ゆくゆくは、子どもたちが誰でもおにたろうを描けるようになってくれたら嬉しいなと。

――絵本の制作は1人で手掛ける部分が多くて苦労も多いのではないでしょうか。

リリー:今回の絵本は番組の企画がきっかけでしたが、限られた時間でゼロから作り上げました。毎回スケジュールがスパルタで、仕事終わりの深夜12時ころからやりだして、夜を徹して絵を描いたこともあります。やっているときはどうなることかと思ったし、絶対無理だと諦めていましたが、形になったら我が子の様にかわいいものですね。

――絵本を出すことは憧れだったのでしょうか。

リリー:もちろん。ずっと、形になるものは作ってみたかったですね。だから、番組で絵本を出すと言われたときも、やるならちゃんとやりたいなと。時間がない中であっても、適当にはやりたくないと身が引き締まりました。体力以上に、精神力や集中力を維持することが大変でしたね。

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