生成AIの台頭、イラストレーターは夢ある仕事なのか?「好きを仕事にする」ということ
筆者はコロナ騒動が起こる前、あるAIの研究者に取材をしたことがあるが、そのときは「タクシーやトラックの運転手などの仕事は、数年後にはAIが担うようになる。その次は弁護士や医療などの仕事。芸術分野などの創造性の高い分野は、もっとも後になって置き換えられる技術だろう」と言われた。こうした議論は、当時からネット上で盛り上がっていたように思う。
ところが、それから数年経った今、急速に進化が進んでいるのは「もっとも最後に置き換えられるだろう」と言われていた芸術分野の技術である。タクシーやトラックの運転をAIが置き換える気配はまるでない。バスの自動運転などは試運転が行われているものの、法的な問題もあって、実用化まではしばらく時間がかかりそうだ。
対して、法的な縛りがほとんどない芸術分野の生成AIは、ある意味ではやりたい放題であり、自由な環境のもとで進化が続いている。ネット上では、Novel AIの最新モデルが話題になっている。まとめサイトには京都アニメーション風の『涼宮ハルヒの憂鬱』のハルヒ、『ラブライブ!』のキャラクターなどの出力された例が上がっていたが、パッと見ただけではAIとはわからないクオリティだ。
また、11月22日に発売された「週刊少年チャンピオン」52号に、AIと人間がコラボレーションして制作された『ブラック・ジャック』の新作が掲載された。この作品は大方の予想通り、ネット上で様々な立場から議論が巻き起こったが、とにかく生成AIについて世間の関心が高まっているのは間違いないだろう。
この時代に「好きを仕事にする」ということ
生成AIは未だ発展途上の技術であるが、特に10代の若者の間では「このご時世で、イラストレーターや漫画家を目指すのはありなのか?」と、不安がる人もいるようだ。AIが身の回りに溢れる時代になれば、「好きを仕事にする」ことが重要だといわれた。ところが、AIが芸術分野に進出し始めているのだ。確かに、「好きを仕事にする」ことが危ぶまれそうな事態である。
一方で、生成AIの成長によって、逆に注目されるようになっているのが昔ながらのアナログなイラスト、漫画の技術である。X上でも、『はじめの一歩』の森川ジョージ氏がアナログで漫画を描く過程を投稿して反響を集めているし、水彩などのアナログでイラストを制作して展示会を行う例も目立つ。筆者の知人で、『ポケットモンスター』のカードのイラストを描いている西田ユウ氏は、先日行われた展示会に大判のアナログイラストを出品していた。
これはクォーツ腕時計が進化した後に、昔ながらの機械式腕時計が注目されるようになったのと同じ現象であり、量産化の技術が確立されると、人間の手仕事が見直されるようになるのだ。おそらく、誰もが生成AIを使いこなせるようになれば、人の手で創り出されるイラストのブームが起きるだろう。X上には、コピックやスクリーントーンなどで描かれるアナログイラスト・漫画が多数投稿され、クリエイターに羨望の眼差しが向けられるのではないか。
結局のところ、「イラストを描くのが好き、楽しい」という思いがクリエイターにある限り、イラストレーターや漫画家の仕事はそうそうなくならないのではないか。したがって、「好きを仕事にする」のは、間違いなく意味のあることだと思われる。筆者は生成AIの進化を興味深く見ているが、人間の創造力のほうがその技術を上回っていくのではないかと思うし、そうした作品が出てくることに期待したいと思う。