『転生したらスライムだった件』はなぜ成功したのか? なろう系で新たな地平を切り拓いた作風

児童書版の最新刊『転生したらスライムだった件 祝祭への道のり8(下)』(かなで文庫)

 「小学館や集英社や講談社といった老舗のエンターテインメント系出版社があり、KADOKAWAのようにライトノベルの分野で圧倒的なシェアを誇っている出版社もありますが、なろう系ファンタジー小説では、そうした序列がそのままの形で現れているとは言えません。香月美夜さんの『本好きの下剋上?司書になるためには手段を選んでいられません』シリーズはTOブックスからの刊行ですし、アニメ化が決まって盛り上がっている日向夏さんの『薬屋のひとりごと』もヒーロー文庫からの刊行です。もちろんKADOKAWAは『この素晴らしい世界に祝福を!』『Re:ゼロから始める異世界生活』『オーバーロード』『幼女戦記』の"異世界カルテット"を掲げつつ、他にもどんどん新作を送り出して市場を席巻していますが、そうした中にあってマイクロマガジン社という、コンピュータ系の雑紙では知られていても小説やコミックでは後発だった出版社が強い存在感を放っているのは、『転スラ』の大ヒットがあればこそです。

 同社はさらに『転生したら剣でした』『賢者の弟子を名乗る賢者』『田中~年齢イコール彼女いない歴の魔法使い~』といった人気シリーズを送り出し続けており、『転スラ』で得た実績を活かしている印象です。『転スラ』については児童小説のレーベルにも展開され、若年層にも浸透していっています。子どもにとってはスライムのキャラクターが愛らしく見えるかもしれません。成長していく姿やキャラクターが増えていく展開も、どんどん世界が広がっていく感覚を与えてくれるものとして受け入れられそうです。『転スラ』は出版地図を塗り替え、版元のビジネスも変えた作品と言えそうです」

 ライトノベル界においてエポックメイキングな作品である『転生したらスライムだった件』を、この機会にチェックしてみたいところだ。

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