『ドラゴンボール』ハリウッド版は「悟空」が高校生の設定? 原作とは異なる“違和感“の楽しみ方

 人気漫画のアニメ化、ドラマ化は基本的にファンが喜ぶ出来事……であるはずなのだが、時には賛否両論が巻き起こってしまうことがある。特に原作を愛するファンは、脚本が原作とまったく異なる内容に改変されたり、はたまた俳優のイメージがキャラと合ってないなどで、バッシングの嵐になることも少なくない。

 例えば『銀魂』の実写化などは、俳優とキャラのイメージがあまりにぴったりなので、大絶賛された例といえるだろう。しかし、一昔前まではアニメですら原作とまったく違う展開になる例が珍しくなかったのである。オリジナルキャラクターが出てくるのは許容範囲だが、主人公のキャラ設定は言うに及ばず、序盤から話をまるまる変えてしまった例も少なくない。

 2000年代前半、美少女ゲームの『AIR』『CLANNAD』のアニメ化で京都アニメーションが賞賛されたのは、原作に忠実な脚本で、原作のイメージを大切にしたキャラクターデザインだったためだ。対する某大御所監督が制作した映画版は、一部に評価するファンもいたが、京アニほどの賞賛は得られなかったといえる。

 さて、日本漫画の代表格といえば鳥山明の『ドラゴンボール』だ。『ドラゴンボール』はテレビアニメも劇場版アニメも大ヒットし、原作もアニメもともに高く評価されているが、ハリウッド版が制作されたことをご存じだろうか。それが『DRAGONBALL EVOLUTION』で、2009年の3月13日、今から14年前に日本で先行公開されたのである。

 内容について評価することは控えておくが、案の定、キャラクターの設定がまったく異なるものになってしまった。何しろ孫悟空が高校生という設定なのである。ブルマや亀仙人などとの出会いも原作と違いすぎており、ここまで違うものになっていると、いろいろな意味で面白くなってくるほどだ。ちなみにテーマソングが浜崎あゆみの『Rule』で、鳥山明があゆの似顔絵を描き下ろしていたのだが、ファンでもそのことを覚えている人が果たしてどれだけいるだろうか。

 鳥山明は本作についてどう思っていたのだろうか。公開時のオフィシャルトレーラーに鳥山が寄せたコメントを引用してみよう。「脚本やキャラクター造りは原作者としては『え?』って感じはありますが、監督さんや俳優の皆さん、スタッフなど、現場は超優秀な人達ばかりです」と述べ、「ボクやファンの皆さんは別次元の『新ドラゴンボール』として鑑賞するのが正解かもしれません」と語っている。そして、「もしかしたら現場のパワーで大傑作になっているかもしれませんよ! おおいに期待しています!!」と語っている。なんとも複雑で、意味深なコメントだ。

 その後、2013年には『ドラゴンボール』シリーズでは18年ぶりの劇場版アニメとなる『ドラゴンボールZ 神と神』が公開された。本作は、鳥山明が原案をはじめ、脚本の段階から参画した意欲作として話題になった。その甲斐あって完成度は高く、往年のファンからも賞賛された。

 一時は『ドラゴンボール』から離れたがっていた鳥山がなぜ、制作に関わることになったのか。それはハリウッド版の影響が大きかったようだ。2013年当時に朝日新聞が行ったインタビューによれば、鳥山はハリウッド版の完成度が想定外だったことを意識してか、劇場版アニメで「原作者としての意地を見せたかった部分もある」として制作に心血を注いだとされる。

 もしかすると、ハリウッド版が空前絶後のヒットとなり、誰もが認める傑作になっていたら、『ドラゴンボール』の劇場版アニメが制作されることはなかったのかもしれない。鳥山明の創作意欲に火をつけたという点で、ハリウッド版の功績は高く評価されるべきではないだろうか。

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