『大奥』にハマったら読むべき漫画は? “もしも”の歴史を想像させる『日出処の天子』『薔薇王の葬列』
それは、菅野文によって描かれ、2022年6月に第17巻が出て完結した『薔薇王の葬列』にも言えそうだ。リチャード三世と言えば、シェイクスピアが戯曲に描いた狡猾で残忍なイングランド王として知られるが、『薔薇王の葬列』の主人公として登場するリチャードは女性のような顔立ちで、胸に乳房を持つ両性具有者として描かれる。そうした肉体故に母から疎まれながらも父や兄を助けて戦うリチャードだったが、「薔薇戦争」で知られるヨーク家とランカスター家との争いが続く中、敵であるランカスター家のヘンリー六世と偶然に出会い、惹かれていく。
容れられない思いの悲しさを感じさせるストーリーは、厩戸王子と蘇我毛人の関係に重なるところがある。両性具有という肉体的な特質を隠して家族を持ち、家名を守ろうとするリチャードの姿も厩戸と共通。母親から拒絶され愛を得られない幼少時代を経たことで、愛を求めてあがく様も厩戸や、将軍の代わりを務めるため、男装させられ女性であることを許されなくなった『大奥』の千恵を想像させる。
リチャードの最後は厩戸王子や徳川家光とは違って戦場での戦死で、織田信長に近いものがあるが、その死にもひとつの空想をめぐらせて、あり得たかかもしれない“その後”を見せてくれている。変えられない歴史の中にそうした空想の幸福をもたらしてくれる力を、ここに挙げた漫画たちは持っている。