なぜ若者は「ゆるい職場」を辞めてしまうのか? 働きやすい職場のジレンマ

 そうした点をはじめとした若手育成の難問については、一章を割いていくつもの改善策を詳細に論じている。たとえば、若手だけのチームを作り、「横の関係」において共に切磋琢磨できる環境を用意すること。目標・成果が可視化されやすい業務とすることで、主体的に取り組み、成長するという。あるいは、会社の外部の活動を尊重すること。副業、勉強会、趣味活動などをすることで、成長しなんらかの知見を得て、自社の仕事に良い影響を与えてくれることがある。社内において勉強会やワークショップといった「外側」の環境を作るのもひとつだそうだ。

 本書の特筆すべき点は、若手と上司の両方の立場を知悉した上で、そのあいだの絶妙なバランスを保っていることだ。「最近の若者はなっていない」といった凡庸な若者論には決して与せず、現場の若手たちのインタビューやデータからその実態に迫る。そこで寄り添うことをしながらも、同時にその上司の悩みにも同じように理解を示し、有効な改善策を提案している。そうした架け橋のような立場から、定性的・定量的データをベースに論じていく手つきは、実に見事で説得力がある。

 人事関連の仕事をしていない人が読んでも、これからの日本社会で「働く」とはどういうことかを考えることができる。著者があとがきで「これまで狭い枠組みに縛り付けられていた若手が、躍動しようとしている」と評するように、その価値観の変化には新たな可能性があると言えるだろう。現場の最先端の事例を知ることで、改めて自身の仕事やキャリアについて、旧来の凝り固まった考えに囚われずに、柔軟に考えることができるはずだ。

関連記事