『ラブライブ!』の大人気キャラを描いた室田雄平 自身のイラストを「賞味期限切れ」と語る理由と次なる挑戦

キャラクターデザインはどこから始まるのか

――アニメのキャラクターデザインは、どのような段取りで始まるのですか?

室田:作品によるんですよ。決まった手順などはありません。僕が関わった作品は、まず僕が絵を描くところから始まりました。僕の絵を見てキャラクターの設定を考える方が性格を決めて、そこからストーリーを考えていったんです。

――キャラクターデザインありきなんですね。

室田:珍しい体験をさせてもらったと思います。オーソドックスなやり方だと、はじめに設定があり、監督の思い描いたイメージをもとに起こしていくのが普通ですからね。とはいえ、最終的にいい作品ができるのであれば順序は関係ないんですよ。工業デザインのやり方に通じますが、どこからスタートしてもいいとは思います。

――工業デザインの話が出ましたが、室田先生は大学で工業デザインを勉強された経験がおありです。著書の中でも何度も髪の色を検討していますが、これは工業デザインの考え方にも近いのかなと思いました。

室田:髪の色は目につきやすく、識別しやすいので、キャラクターの差別化を行ううえで重要なポイントだと思います。登場人物の髪の色を統一させるデザインももちろんありですが、僕の場合は色の力に素直に頼ってしまいますね(笑)。

――室田先生が決めた色が100%採用されたんですか?

室田:色彩担当と決めたものもあり、監督とこねくり回して決めたこともあります。ただ、意外と、僕の提案が素直に通ったものも多いですね。そのへんはだいぶ尊重していただけたのかなと思っていますが。

――アイドルアニメで欠かせないのは衣装のデザインですよね。AKB48などの既存のアイドルの衣装を参考にすることはあるのでしょうか。

室田:参考にしたことはありますが、実はそれほどアイドルには興味がなかったんです。「SPEED」や「モーニング娘。」のど真ん中の世代でしたが、あまりハマらなかった。アイドルアニメをやることが決まってから、プロデューサーにAKB48のプロモーションビデオや写真集を渡されて、勉強したくらいです。なので、参考にしつつも、手探りでデザインをしていったというのが正しいと思います。

衣装を決める過程。最終案に残った3案の中から今回は右端の案を採用したが、実はこの3案にいたるまで室田雄平はさらに膨大なスケッチを繰り返している(本書に収録されている)。ステージ映えする優れたデザインの衣装は、膨大なボツの山から生まれていたのだ。

モブキャラまでしっかりとデザインしていく

――著書で、黒色赤目で「過去にデザインしたキャラに似てしまいました」と苦笑する場面がありますが、せっかくいい組み合わせと思っても、ご自身もしくは他者がデザインしたキャラに似てしまい、変更した場面はあるんでしょうか。

室田:何度もありますね。実は、難しいのがメインのキャラよりもモブのデザインなのです。例えば、モブを出したあとに登場するメインのキャラと、偶然、髪型が一緒になってしまったことがあります。すると、ファンから指摘されるんですね。「伏線なんじゃないか」「主人公はこのときのモブだったんじゃないか」などと、憶測をされてしまいます。

――あ~、申し訳ありません。そういう憶測は僕もやってしまいますね(笑)。

室田:最近だと、学園アニメは、クラスメイトも1人1人デザインしないといけません。ストーリーの本筋から外れた憶測を生まないためにも、描き分けを入念にする必要があります。

――といっても、モブまで描き分けるのは大変ですよね。モブが奇抜な髪型をしていたら浮いてしまいますし、そもそも髪型のバリエーションも制約が多いと思います。

室田:これまでにモブを含めると100人以上はデザインしているので、髪型などが過去の仕事とかぶってしまうことは、どうしても避けられないんですよね。なんとか違いを出すように工夫してはいますが。他人に仕事を任せるにしても、作品の世界観に合わせないモブをデザインされても困りますから、事前の擦り合わせは必要だと思っています。

大ヒット作に関わったあとの次の一手は?

――著書で、室田先生は「この絵柄はすでに多くの媒体で、幸いにも長年見られる絵柄になってしまいました」「流行の賞味期限という意味ではピークが過ぎた絵だと思います」と書かれています。このコメントからは、室田先生の苦悩や葛藤が感じられました。

室田:ずっと終始悩んでいますよ。ありがたいことに、これまで多くのキャラクターをデザインさせていただきました。ただ、関わったコンテンツが長く続くと、その間に絵柄の流行も変わっていくものです。そうすると、受け手にとってはいつの間にか古臭くて違和感あるものになってしまいます。

――といっても、絵柄が変わることに対して違和感を持つ人もいるのではないでしょうか。

室田:僕の絵柄は意識的に変えているというか、型にはめないようにしています。それに、少しずつでも絵柄を変化させていった方が、コンテンツの賞味期限を延ばす意味では有効だと思いますからね。また、僕は単純に飽き性なので、変えることにそれほど抵抗がないというか。ゆる~い感じでやっていく温度感がいいですね。

――なるほど。室田先生の絵柄の変化は、創意工夫の賜物なのですね。

室田:特に意識して変えているのは、線ですね。僕は3~4種類くらい、線のパターンを持っています。だから、CDのジャケットを描くときは曲の雰囲気に合わせてやわらかいタッチの線で描いてみようとか、よく言えば柔軟な対応ができるんです。

――室田先生は今後、どんな作品に関わっていきたいと思っていますか。

室田:キャラクターデザイナーとしては、やり残したこともいっぱいありますし、新しい作品に関わりたいという思いもあります。あとは、個人で作るような小規模の作品にも関わっていきたいですね。幸いにも僕は結果的にビッグプロジェクトに携わらせていただきましたが、デザインひとつをとっても、個人ではコントロールできないことが多くなっているのも事実です。

――描いたイラストが、知らないところでグッズ化されていたりしますからね。

室田:だから、将来的には、手が届く範囲内の仕事にもチャレンジしたいと思っています。お話したように、僕は本来マイペースで仕事をするのが好きなんです。誰にも見向きされないところから地道にやっていくのも、性に合っているのかなと思っています。

インタビューを終えて

 室田雄平が生み出したキャラクターが世界中の人々を魅了し、多くの人に喜びや感動を与えてきたことは誰もが認めるところだろう。その創作意欲は健在であり、新たなキャラクターを創造したいという情熱にあふれていたのが印象的だった。今後どのような作品に関わっていくのか、楽しみで仕方がないクリエイターの一人である。

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