考察合戦が進む『ちいかわ』ファンにおすすめしたい、吉田戦車の名作『一生懸命機械』

 “なんか小さくてかわいいやつ”が活躍する漫画・アニメ『ちいかわ』の人気が止まらない。コラボグッズも好評を博しているが、11月1日には、郵便局アイテムの販売が始まり、SNSでトレンド入り。12月7日からは、松屋銀座8階のイベントスクエアにて、作者であるイラストレーター・ナガノ氏の作品を展示する「ナガノ展 ~ちいかわ、ナガノのくま、ナガノ作品の原画が大集合!~」が開催される。

 そんななかで、SNSで話題になっているのが、作品に漂う「不穏なムード」だ。愛らしいキャラクターたちが展開する、ゆるふわで不条理な物語は、細かく説明されない謎が多く、「討伐」と呼ばれる彼らの仕事や、それを管理する「鎧さん」、ときにちいかわたちを襲う「擬態型」と呼ばれる存在など、考えようによっては恐ろしい要素が少なくない。そのため、人気の拡大に合わせて考察合戦が繰り広げられてきたが、ここにきてTwitterを中心に大きな盛り上がりを見せている状況だ。

 テレビアニメ版は朝の情報番組『めざましテレビ』(フジテレビ系)で4月から放送されており、当初はこうしたダークに見える要素は反映されないだろうと考えるファンも多かったが、最も狂気を感じるエピソードのひとつとして知られる「キメラ回」が映像化されるなど、アニメだけを楽しむ層にもその“不穏さ”は共有されていった。

 カルチャーメディア「KAI-YOU」のインタビュー(『ちいかわ』作者インタビュー 可愛くも不条理な“ナガノ“ワールド)において、ナガノ氏は「何かメッセージを伝えたかったり、重いテーマを描いているというよりは、何かが起こった時の反応や表情を描きたいという気持ちの方が強い」として、影響を受けた作家に「吉田戦車」の名前を挙げている。

 不条理ギャグ漫画の先駆者として知られる吉田戦車という作家をベースに考えると、なるほど理解が進む。動物や無生物を巧みに擬人化し、キャラクターとしての愛らしさ、面白さを引き出しながら、それらが自我を持つゆえの“不穏さ”がフックになる。エッセイ等からわかるように、当人はいたって善良な人で、人を不快にするような裏設定などはなく、その“おかしな発想”が作品世界に考察の幅をもたらしている、という見方ができるかもしれない。

 例えば、擬人化された機械が“使命”を果たすために健気に働く姿を描いた『一生懸命機械』は、笑いや癒しと共にどこか切なさや薄暗さを感じる名作で、『ちいかわ』ファンにも受けるのではないか。逆にいうと、『伝染るんです』や『ぷりぷり県』を愛読していた往年の漫画ファンも、『ちいかわ』にハマれるかもしれない。Twitter連載という今日的なルートからブレイクした『ちいかわ』だが、“不条理ギャグ”という文脈で見ると、時代を問わない普遍性があると言えそうだ。

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