『幽☆遊☆白書』戸愚呂弟と仙水忍はなぜダークサイドに堕ちたのかーー哀しき悪役の人生

悪役ではないのだが……幽白史上、もっとも悲惨な最期を迎えた男

 室田繁は悪役ではない。むしろ幽助に仕方なく協力する立場だった。だが取り込まれた彼の能力は敵である仙水側に利用されたので、広義の悪役としてとらえたい。

 とはいえ。そもそも、室田を覚えている読者はどのくらいいるのだろうか。つらい過去から「盗撮」(タッピング)の能力を持ち、アクシデントのような形で幽助に協力することになった室田繁は、ボクサーになる夢があった。性格も良く、仙水発見に貢献したが直後に撃たれ病院に搬送される。その搬送先でも狙われるが活躍を見せ敵の手を逃れる。

 ところが、である。しばらく登場しなくなったと思っていたら、能力者を食べその能力を得ることができる「美食家」(グルメ)巻原定男に食べられて命を落としていたことが後に判明する。巻原は次に食べた戸愚呂兄が巻原を吸収し、戸愚呂兄の支配によって発狂する。ふたりの能力を取り込んだ戸愚呂兄は意気揚々と蔵馬と戦うが、前述したとおり生きたまま無限の地獄を味わうことになる。

 室田は何も悪いことをしていないのに、つらい過去を背負いプロボクサーになる夢をも絶たれ、生きたまま食べられるという恐ろしい最期を迎えた。仙水側についた能力者たちは、なんだかんだ最後は命を救われたのに、室田に対してはあまりにも理不尽な仕打ちであり、一部の読者に衝撃を与えた。

 巻原は戸愚呂兄を食べたことで支配され、おそらく霊界には行けず戸愚呂兄と永遠の地獄の中にいる。ということは室田も……と思えるが、聡明な蔵馬がそこまで考えていなかったとは思えないので、読者としては「室田は霊界に行って、その後天国に行けていたら良いな」と願うばかりである。悪役ではないが、室田は幽白における「哀しい最期」を語るうえで欠かせない存在である。

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