【漫画】ある夏の日にバスを待っていたら、すべての境界線が……創作漫画『このよのすべて』が意味深で面白い
ーー夏休みが終わってしまうような寂しさを覚えた作品でした。創作のきっかけを教えてください。
双葉すずき(以下、双葉):東京でひとり暮らしを始めて約1年が経ったとき、お金持ちの人がいっぱい住んでいるような場所もあれば、そのすぐ隣では高架下で路上で寝ている人たちがいる光景を目にするなかで、人と人との間にある分断とか、理解し合えない寂しさとか孤独について考えていました。
自分と他人が本当にひとつになることはできるだろうか、もしひとつになったらどういう風になるだろうかっていうことを考え、本作を描きました。
また本作を描くにあたり、真島ゆろさんが作曲したボーカロイド曲『青だった』と『他人以外全部私』からインスピレーションを受けています、
ーー印象に残っているシーンを教えてください。
双葉:最初のコマですね。入道雲と田舎のバス停、山々といった、いかにも夏っぽい風景が大好きで。そのあと、その景色がなくなってしまうことの喪失感も含め気に入っています。
夏休みを想起させるような風景はキラキラしているように感じますが、同時に儚くて、すぐに終わってしまう印象を抱いています。そんな感覚を風景のなかに閉じ込められたらと思いながら最初のコマを描きました。
ーースクリーントーンの加工を人物や山々に施した理由は?
双葉:つよく照る日の光の雰囲気を出すためですね。
ただ本作は境界線がなくなってしまう世界の話であるため、“線を描いている”ことを強調したいという思いがありました。白い紙の上に、例えば人の形の線を描いたら初めて人が登場する。横に1本線を引いたら世界を空と地面に分断してしまう。漫画の線は文字通り境界線をつくっているため、最後には線が消えていくところを強調したいっていう思いがあり、線以外の要素を使いすぎると強調したいものが薄れちゃうんじゃないかと思ったのです。
そのため本作ではどのくらいスクリーントーンを使うか最後まですごく悩みました。その結果として、今回はただ逆光を表す表現としてスクリーントーンを使いました。
ーー「でも/あの時もう1度だけ後ろを振り向いて/あの夏の日を抜けるような青空を/よく見ておけばよかったと/時々思うことがある」という台詞が印象に残っています。
双葉:本当はこの台詞の前で物語は終わる予定でした。ただ作品を描くなかで、世の中がひとつになることで孤独感や人同士の分断はなくなるのだろうか、本当にそれでいいんだろうかと思うようになりました。
例えば孤独ゆえに他人とひとつになったとしたら、その人とおしゃべりをしたり手を繋いだり、ハグをしたりすることができなくなってしまいます。本作は夏の終わりがテーマになってますが、夏休みが永遠につづくものではなく、夏休みとそれ以外の時間に境界線があるからこそ、いつかそれが終わってしまう夏休みはすごく輝いて見えていたのだと思います。
境界線が全部なくなってしまうことは良いことかもしれない。けれど、すべてがひとつになることでうまれる寂しさとか切なさもあるという思いを最後のセリフに込めました。
ーー漫画を描きはじめたきっかけは?
双葉:2歳ぐらいのときに藤子・F・不二雄先生の作品に触れて、気が付いたらずっと漫画を描いていました。漫画家という将来の道を示してくれたのは、小学生の時に読んだ藤子不二雄(A)先生の『まんが道』であったと思います。いろんな漫画を描いて暮らしていく生活に憧れを抱くようになり、初めて漫画家になりたいっていう気持ちと、漫画家を目指す勇気をもらいました。
ーー影響を受けた作家さんを教えてください。
双葉:映画や小説から影響を受けたり、技術を参考にしたりすることも多いですが、自分の作品の一番深いところにあるのは藤子・F・不二雄先生の存在です。『ドラえもん』はもちろん、藤子・F・不二雄先生のSFチックな短編集が好きで。現実世界にちょっとだけ非日常が介在しているような、サイエンスフィクションではなく“すこし・ふしぎ”の略語としてのSF作品が自分の土台になっています。
ーー今後の目標を教えてください。
双葉:たくさんの人から作品を読んでもらえるように、まずは作品をたくさん描くことを目標にしています。将来的には商業誌はじめ何かしらのメディアに作品が掲載してもらえるような、職業としての漫画家を目指したいです。