金田一ファンは『金田一37歳の事件簿』を読むべき 読者のツッコミも織り込んだ“メタ的魅力”を考察

 高校生探偵として数々の難事件を解決した『金田一少年の事件簿』の主人公・金田一一(はじめ)。そんな彼が37歳になり、相変わらずさまざまな事件に巻き込まれながらも、類まれな推理力で謎を解く『金田一37歳の事件簿』が面白い。

 現在、「殺人二十面相」編を終え、休載期間中ではあるが、だからこそ連載再開に備えて、本稿では『金田一少年の事件簿』との違いを示しつつ、『金田一37歳の事件簿』の魅力を語りたい。

読者のツッコミどころを拾う

 『金田一少年の事件簿』のスピンオフシリーズとしては『金田一少年の事件簿外伝 犯人たちの事件簿』があり、これまであった事件の犯人視点で描かれることで、エピソードの再解釈が可能になっている。いかにトリックを実現することが難しいのか、犯人にとっていかに一の存在が疎ましいのかなど、メタ発言がいくつも飛び出し、ファンでなくても楽しめる内容だ。

 そして、こうしたメタ的な視点は『金田一37歳の事件簿』でも見られる。37歳になった一はPR会社に勤務しており、日本各地を飛び回り、例のごとく行く先々で事件に巻き込まれる。ただ、一も自分が事件に巻き込まれやすい“特異体質”であることにさすがに気付いているのか、いかにも事件が起きそうな館“壮麗館”に訪れた際、「なーんかイヤな予感感…!」と不安を覗かせる。ただ、「そーゆー後ろ向きな発想が妙な事件を引き寄せてんだよ!!」とすぐさま自身のネガティブ志向を改めたうえで、フラグを立てる。その後は、もちろん殺人事件が起き、壮麗館を行き来するための吊り橋は燃やされ、閉じ込められてしまうのだった。

 また、都内で開催される江戸川乱歩展のPRを依頼され、会場となる“ミクサライブ東京”に足を運んだ時、一は「やはり東京は安心感あるよ…!」と口にする。そこから堰を切るように「東京なら携帯の電波がつながらないこともないし 突然の嵐で船が出なくて島に閉じ込められることもないし」、「たった一つのつり橋が燃え落ちたり 救助が何日も来なかったりなんてこともないからね…!」と、自ら“お約束”に言及した上で、見事に殺人事件に巻き込まれる。ミクサライブ東京に閉じ込められ、スマホも圏外になってしまい、都内でありながら外部との接触が断たれてしまう始末。一はもはや、家の中でも事件から逃れることはできないのでは、と思わせる。

 ちなみに、その特異体質に違和感を覚えているのは一に限らない。警視長になった明智の部下である幸村真之助は、ことあるごとに事件に巻き込まれる一を“驚異的連続殺人犯”なのではないか、という仮説を明智に話す。「一刻も早く誰かが“彼の正体”を暴かなければ 今後犠牲者は増える一方です!」、「警視長はなぜ今まで彼を泳がせてこられたんですか!」と語気を荒げるが、荒唐無稽な幸村の仮説に上司の明智は笑いをこらえるばかり。確かに無茶苦茶な仮説であり、明智が腹を抱えてまで笑うことも理解できるが、幸村の気持ちは痛いほどよくわかる。

 このようにメタ的な発言も繰り広げられており、推理はもちろん、本作は一を主人公に据えながら、『金田一少年の事件簿外伝 犯人たちの事件簿』を読むようなスタンスでも楽しめるのだ。

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