1億回読まれたお仕事マンガ『今どきの若いモンは』なぜ面白い? “究極の上司”=石沢課長が読者を魅了する理由

 「職場」あるいは「ビジネス」そのものをテーマにした名作マンガは多いが、これほど“上司”が魅力的に見える作品がかつてあっただろうか。アプリ上での閲覧数が1億回を超え、4月9日よりWOWOWで実写ドラマが好評放送中の『今どきの若いモンは』(吉谷光平)。人気コミックアプリ「サイコミ」で連載中の本作は、“お仕事マンガ”の新しい地平を切り開き、勢いを増すばかりだ。

“究極の上司”=石沢課長とはーー

 本作の舞台は、三ツ橋商事という商社の営業部。物語は、新入社員の麦田あゆみと、その上司に当たる石沢一課長を中心に展開する。

 第一話の冒頭、麦田がその日の仕事を終えられず残業に突入していると、「ったく、今どきの若いモンは…」と、一見コワモテの石沢から声をかけられる。年長者が発する若者にとって面倒な言葉として、これ以上に有名なフレーズはない。その後に続くのは、「自慢話と説教の混合物」(麦田の心の声)であるに違いない……とテンションを落としているとーー。

「真面目に働きすぎなんだよ」
「ワシらの若い頃は過労死なんて言葉は無かったからな」
「あとはやっとくからさっさと帰れ」

 と、あまりに意外なねぎらいの言葉がかけられるのだ。第一話からTwitter上で25万を超える「いいね」獲得していることからも、「こんな上司がいてくれたら!」という羨望とともに、あたたかい気持ちになった読者が多かったことが伺える。ステレオタイプな「世代間のすれ違い/対立」を軽快に乗り越え、優しくウィットに富んだ言葉、あるいは素直に若者に感心し、思いやる気持ちを表現する言動で、部下を導いていく石沢課長。その特徴は、物事をフラットに眺める柔軟な感覚を持っていることだ。

 例えば、グラスに半分残ったワインを見て、「もうこれだけしかない」と捉えるか、「まだこんなにある」と捉えるかは人次第。石沢はつとめて後者のようなポジティブな見方を採用し、昼休み、インスタグラムの更新に精を出す麦田を見て、「休憩時間とはいえ公私混同、マナー違反だ」などと言わず、「新しいモン、すぐに使いこなせてスゲェよなぁ」と感心する。こうした石沢のスタイルには、社員のモチベーションをコントロールし、組織の生産性を上げるという実利があり、それは「ただ優しいだけではない」という、滲み出る凄みに支えられている。「上司」という以上に、「新社会人を育てるメンター」と言うべき存在感だ。

 一方、そんな素敵な上司がいる職場が、読者にリアリティを持って伝わるのは、新入社員・麦田の存在があってこそだ。実は当初、彼女は苗字すら明かされることなく、あえて「どこにでもいる一般的な新入社員」として描かれている。そのことが多くの読者の感情移入を可能にしており、「誠意を持って仕事をすれば誰でも成長できる」という姿を体現しているのだ。いかに石沢が魅力的でも、その言動の意味を汲み取る感受性を持った彼女がいなければ、ここまで多くの読者を獲得する作品にはならなかったかもしれない。

ひとクセもふたクセもある、魅力的なキャラクターたち

 物語の序盤はこの二人を中心に、ショートエピソードが展開されるが、回を重ねるごとに魅力的なキャラクターが増えていく。

 比較的序盤から登場する人物では、例えば、麦田のミスとも捉えられる問題に対して、「(石沢の)指導が甘いから甘ったれた新人が育つ」と言い放つ、恵比寿良二課長。彼は石沢と表裏の関係にあり、若者が嫌う「今どきの若いモンは」という言葉をストレートな意味で使うタイプの人物だ。理不尽に思える言動も多いが、「厳しくすると今の時代すぐにパワハラだと言われるし、かと言って甘くすれば成長しない」と吐露する彼には、石沢とはまた違った信念がある。

 つまり恵比寿は、ある種の天才性を持った石沢のようにはなれなかったが、泥臭い努力の重要さを誰よりも知っている人物として描かれており、「上司」という立場にいる読者も強く共感できるキャラクターになっていく。その後のストーリーでも、取引先の社長やかつて石沢に立場を追われた元上司など、「悪役」に見える人物のバックグラウンドや思いが丁寧に掘り下げられるため、人に対する想像力を常に働かせることの重要性を教えられる。

 また、麦田に初めてできる後輩社員、金松要と服部美世も、それぞれにフックのあるキャラクターだ。一見爽やかで器量も要領もいいが、どこか仕事をナメている金松と、上司にも「みーよん」と呼ばせるフランクすぎる性格だが、家庭の事情から貪欲に仕事に向き合う美世。問題含みの新入社員だが、二人に刺激を受けながら、成長を促し、自身も成長していく麦田、という新しい展開を賑やかに盛り上げてくれるキャラクターで、すぐに愛着がわく。

 麦田が上司になったとき、石沢が言動で見せてきたこと、あるいは背中で語ってきたことがどんな形で生かされていくのか、楽しみに読み進めてほしい。

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