ライターが選ぶ、2022年注目の「BLマンガ」5選 いつの時代もピュアラブは正義!

 昨年末に筆者は、「2021年BLコミックBEST10」を僭越ながら選ばせてもらった。そして2022年に入って1カ月も経っていないタイミングですでに、今年のBEST10に入ってもおかしくない作品が、時間と財布が追い付かないレベルで続々リリースされている。

 今回は2022年現在、連載中の作品から注目作を5つ紹介したい。

『ピンクハートジャム』(しっけ/集英社)

 大学の重音楽部で出会った新入生・灰賀と先輩・金江の恋を描く『ピンクハートジャム』。同作の魅力は「ギャップ」にある。

 まずはストーリーそのもののギャップだ。ふたりはサークルの先輩後輩だが、はじめて面と向かって話した場所は大学ではない。灰賀が自分のセクシャリティと向き合うために向かった、金江のバイト先であるゲイ向け優良風俗店だった。このように序盤の展開は、ふたりの関係が刺激的なものとなっていくことを予感させる内容だ。しかし読み進めれば進めるほど、ピュアな恋が深まっていく。あまりのじれったさに、読んでいるこちらの心がかき乱されるほどだ。

 さらにこのギャップは、キャラクターにも見られた。サークルの看板バンドのフロントマンで周囲からも一目置かれている金江は、そのクールさや色気からは想像できない「体の関係からではない恋愛への強い憧れ」を物語のあちこちで見せてくる。この意外性に、灰賀だけでなく読者のハートにも矢が刺さること必至だ。

 ギャップによりますます際立つ灰賀と金江のピュアラブから、目が離せない。

『ミツバチとレモンバーム』(端倉ジル/一迅社)

 元ヤクザ・密谷薫と花屋の店主・白水侑一郎の、恋のはじまりを描く『ミツバチとレモンバーム』。この作品もまた、ピュアな恋模様が特徴の1冊だ。

 また同作は、「2021BLコミックスBEST10」で昨年度のBL界で支持されていると分析した「年の差」を設定に含んだ作品でもある。刑務所を出たばかりで何もかもを失った22歳の密谷に、夜の街専門の花屋で住み込みで働かないかと持ちかけたのが29歳の侑一郎だ。

 年上の人生経験からくる精神的余裕と、反対にこびりついてしまった価値観。年下の年下と比較したらどうしても幼く見えてしまう部分と、自分の気持ちに正直に突き進むパワー。このセオリーどおりのキャラクター設定ばかりではないものの、今の自分にしかないものが意図せず相手を導く力になる、といった展開が年の差恋愛ものの大きな魅力だと筆者は考える。

 同作も行き場をなくした密谷が侑一郎に居場所を与えてもらった、救済の物語のように見える。しかし無理がたたり道で倒れていた侑一郎に、一目惚れがきっかけだったとはいえ手を差し伸べたのは密谷だ。そして互いが互いの居場所になっていくと予感させる描写が、物語のあちこちにちりばめられている。

 感情の出し方、隠し方が一枚も二枚も上手でまだまだ謎めいた部分のある侑一郎と、割と何もかもが筒抜けな密谷の対比が柔らかく朗らかに、そしてコミカルに描かれている同作。BLの入門としても読みやすい作品だろう。

『ブルーモーメント』(一穂ミチ・ymz/講談社)

 非常に挑戦的な作品だと感じたのが『ブルーモーメント』だ。同作はマスクなしでは外出も気軽にできず、飲食店には休業要請が出されている、そんな世界的パンデミックに見舞われた日常を舞台としている。そう、まるで現実のコ〇ナ禍なのだ。

 マンガに「フィクションの世界でくらい息苦しい日常を忘れさせてほしい」と願う人も少なくないだろう。読者から敬遠されてしまいかねないテーマでもある。しかし同作は、うまく言葉にできない不安感を変に煽ることなく、あくまで淡々と表現している。そのため、現実感のない不安定な日常をともに生きる同士のような作品だと感じた。

 そこに加わるのが恋愛要素だ。飲食店の店主で主人公の多田響と、その店の常連・観月尚人、そして響と恋人関係にある日比谷征司の三角関係展開が予想される。触れあうこともはばかられる映画の世界のような現実に3人の恋が絡んでいく展開は、ドキドキを味わわせてくれるだけでなく、こんな世の中でも当然存在する人の欲求を肯定してくれているようにも思えた。

 息苦しさを覚えている今だからこそ、読んでよかったと思える作品だった。三角関係の行方も見逃せない。

『夜明けの唄』(ユノイチカ/シュークリーム)

 もはや『夜明けの唄』旋風とでも言おうか。昨年のベストコミックでも取り上げた同作は、まだまだ先の読めない、壮大なファンタジーミステリー展開を見せている。黒い海からやってくる化け物と独りで闘い続ける、覡(かんなぎ)と呼ばれる戦巫子のエルヴァと、そんな彼を孤独から救う術を見つけるために奔走するアルトの恋路も、絶賛進展中だ。

 「化け物の正体」「覡が闘う理由」「覡に短命である理由」など、なかなか明らかにならない幾重にも重なる謎が、アルトとエルヴァの恋路の障壁となる。そんななかでも互いの存在の大きさを確かめ合うふたりの関係性は、あまりにもまっすぐで美しい。

 そしてただ一緒にいられればよかったふたりの関係が、触れたい、触れられたいと少しずつ深くステップアップする兆しを見せている点からも、目が離せない。数年の命という究極の制約の中で誰かとともにいることを諦めていたエルヴァは、どこか非現実的存在だった。しかし生きて大切な人がそばにいる喜びを知り、自分のなかに眠っていた人間的欲求と直面する。エルヴァに芽生えたむき出しの人間らしさが、アルトのストレートなエルヴァへの想いと交わり始めたことで、一気に恋の物語も加速していきそうだ。

 ふたりが背負った宿命とふたりの恋路がどうなるのか。謎も愛も深まる物語をハラハラしながら見守りたい。

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