ハライチ・岩井勇気が明かす、漫画原作進出の裏側 「アイデアは最近ムカついたことや、イヤな経験(笑)」

 初エッセイ集『僕の人生には事件が起きない』や初小説『どうやら僕の日常生活はまちがっている』でも大きな話題を集め、乙女ゲーム『君は雪間に希う』の原作・プロデュースも行うなど、執筆業でも存在感を示している、ハライチ・岩井勇気。「やりたいこと」を見せつけてくれた漫才日本一決定戦『M-1 2021』も記憶に新しいが、昨年は漫画にも進出。原作を手掛ける『週刊ヤングマガジン』(講談社)連載中の『ムムリン』(漫画・佐々木順一郎)第1巻が発売となった。

 宇宙旅行の帰り道に宇宙船が故障してしまい、日本の小学生・コウタの部屋にたどり着いたポコムー星人のムムリン。その愛くるしさで快く歓迎されると信じていたムムリンだったが、容赦なしの正論で相手の痛いところを突くコウタは、「えっ? まさか宇宙人ってだけで珍しがられて 優しくしてもらえると思ってない?」と辛辣だ。そんなふたりが織りなす『ムムリン』で、岩井さんが「やりたいこと」とは?(渡辺水央)

ムムリンは無自覚な悪

──『ムムリン』の連載が始まった経緯から教えてください。

岩井:二次元コンテンツは好きなので、漫画を作りたいなっていう気持ちはずっとあったんです。そんな中で最初に話をいただいたのが講談社の『ヤンマガ(ヤングマガジン)』だったので、逆にいいの!? って感じでしたね。芸人に原作を任せるようなところって、始めたてのWeb媒体とかかなと思ってたんですけど、ちゃんとしたところじゃねぇかよって(笑)。

──アイデア自体はもともとあったものなんですか?

岩井:最初の打ち合わせのときにプロットみたいなものを3つくらい持ってたんです。ただ、単発だと思っていたのが連載だってことで、そうなるとこの3つは違うなって。異世界モノや料理漫画をちょっとイジッたやつを考えていて、1話だけでバズるにはよくても続けていくのはしんどいなって。それで「どうしましょう?」って悩んでいたら、「やっていただけるなんでも!」ってむしろガバガバな感じだったんです。それでヤバいなってなって、逆に気が引き締まって(笑)。続けていけるもので面白そうなものっていうことでパッと思い浮かんだのが『ムムリン』でしたね。

──『ヤングマガジン』の連載ですが、見え方は『コロコロコミック』っぽいというか。

岩井:間口を広げたかったんですよね。青年誌っぽい感じにしちゃうと、女の子は入っていけないじゃないですか。男が勧めない限り、読まなくないですか? だから老若男女みんなが入りやすいネタでおびき寄せようかなと(笑)。ああいう世界観と絵柄にしたいなって思ったのはそれがありました。漫画に関しては自分のやりたいことだけやっていても意味ないので、今に合わせたものにしたいっていうのもあったんです。最近、レトロブームで昭和がちょっとおしゃれみたいな空気があるので、昭和の匂いも入れて。その中で世にまかり通るおかしなことをおかしいと正面突いて言うわけですけど、現代はズバッと言う人が好かれる傾向にあるので、そういう感じも今に合ってると自分では思うんですよね。

──なるほど(笑)。その佐々木先生とのやりとりはどんなふうに進められているんですか?

岩井:台本みたいなものを作って佐々木先生に出してます。ネームを描けたらいいですけど、そこまでの技術はないので。週一回、決まって原作を出さないといけないので、作業する日を設けてるんですよ。アイデア自体は最近ムカついたことを書くときもあれば、これまでの経験からあれはイヤだったっていうことを落とし込むときもあって。こういうことあるっていう“あるある”も入れてますしね。

──日を設けてるということは、もう完全に籠って集中しながらの作業ですか?

岩井:ネタもそうなんですけど、家の作業部屋でしかできないです。ただ、始めるまでが長いんですよね(笑)。限界まで遊んで、テレビとか観て麻雀とかやって、本当にそれが全部飽きたら、なんですよ。やりたいことランキングの遊びがすべてやり尽くされて、やることねぇから台本やるかって(笑)。そうするとちょっと楽しくできる気がして。

──そうやって『ムムリン』は作られているわけですが、一見愛されキャラのムムリンが毎回やりこめられているのが面白いところです。何せ出会いがしらからコウタに「『僕、かわいそうでしょ?』って感じ出して こっちに何か期待してるでしょ? 親切にされるのが当たり前だと思ってるの?」とまで言われていて。

岩井:かわいそうっていう意見のほうが多いと思うんですけど、ムムリンは無自覚な悪なんです。かわいそうを盾とする悪って、いっぱいいるじゃないですか(笑)。若林(正恭)さんが山里(亮太)さんに「マウントを取らせて下から間接を決める」という言い方をするんですけど、ムムリンはそういう受動的な攻撃をしていて。それ、ムカつくんですよねぇ(笑)。

──被害者という名の強者ですね。それで言うと、ムムリンをもっと痛い目に遭わせたい……?

岩井:そこまではないんですけど、ムムリンには自分の悪を多少自覚して欲しいなって思います(笑)。コウタはそれを指摘するわけですけど、彼の目線でムムリンのために言ってあげてるみたいなところはあるかもしれないですね。

──対するコウタはムムリンだけじゃなく何に対しても鋭い正論をぶつけますが、その論破ぶりが小気味いい一方で、ムムリンの作ったラジコンに文句を言いながらもずっと遊び続けるようなかわいらしい一面もあって。

岩井:まぁなんだかんだ言っても小学生ですからね。そういう部分ではまだ子供で、実は相手を論破し尽くしちゃうところもまた子供だなって。もっと頭いいやり方というか、合理的な論破以外のやり方ってあると思うんですよ。それをまだコウタは分かってないんですよね。自分が真っすぐいくことが最短距離だと思い込んでいるけれど、実は自分が折れたりとか人を立てたりするほうが最短距離のときもあるんですよね。コウタはコウタで、それに気づいてほしいなって思います。僕自身、そんなところがありましたからね。

──なるほど、『ムムリン』はムムリンとコウタ、どっちの成長物語でもあると。岩井さんご自身は、どんな子供だったんですか?

岩井:掃除の時間にベランダで遊んでたら先生に見られてて、「お前はもうそこに居ろ!」ってベランダに締め出されたことがあったんですよ。友達がカギを開けてくれようとしたんですけど、5時間目の授業が始まってるのに岩井が居ないってなったら先生のほうが問題になるだろうと思って、「開けるな!」って。本当にそこまで粘って「何やってるんだ!?」って先生に連れ出されて、「何やってるんだじゃねぇだろ!!」って思いましたけどね(笑)。あと、友達とケンカしたときに、先生が相手には普通に子供を諭すように話してたんですけど、俺には「岩井は大人の考えができるんだから」みたいなことを言ってきて。そう言えば俺が動くと思ってんだなって……思ってました。そんな感じの小学生でしたね(笑)。

──先生もやりづらいですね(笑)。子供の頃、漫画を描いて遊んだりはしなかったですか?

岩井:ありましたね。小学校の頃、学級新聞を澤部(佑)ともうひとりでやってたんですけど、澤部は小説みたいなもの書いていて、俺は漫画を描いてたんです。めちゃくちゃシュールなやつでしたね。絵に関しては水彩画を習っていてデッサンをやってたので、小学生にしては上手いほうだったんですよ。それで将来の夢として漫画家も頭の片隅にはあって、お笑いか音楽か絵のどれかをやりたいなって思ってました。だだ、今描きたいかって言われたら、佐々木先生の漫画を見てたらできないですよね。佐々木先生の描き方もあるんですけど、アングルがすごい多角的なんですよ。あんなの描けねぇなって思います。

──お笑いは実際にその仕事に就いていて、漫画も原作者としてこうしてやっていて、音楽でもステージに立っていて。現状として、すべて叶っているとも言えますね!

岩井:まぁ音楽も一応そうですね、さいたまスーパーアリーナに立って、武道館にも立って、横浜アリーナにも立って……そういう意味では成功してるかもしれないです(笑)。しかも対バンイベントみたいなことではなくて、番組(『ゴッドタン』)ですけど自分らのライブで。叶ったって言えば叶ってますね(笑)。

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