漫画ライターが選ぶ「2021年コミックBEST10」ちゃんめい 編 『フールナイト』が描く衝撃の世界観
2021年コミック・ベスト10(ちゃんめい)
1位『フールナイト』安田佳澄(小学館)
2位『ファッション!!』はるな檸檬(文藝春秋)
3位『アンタイトル・ブルー』夏目靫子(講談社)
4位『恋とゲバルト』細野不二彦(講談社)
5位『六道闘争紀』小田世里奈(講談社)
6位『吉祥寺少年歌劇』町田粥(祥伝社)
7位『ジーンブライド』高野ひと深(祥伝社)
8位『嘘つきユリコの栄光』田中現兎(講談社)
9位『ワールドイズダンシング』三原和人(講談社)
10位『からっぽのアイネ』折山漠(集英社)
先日「このマンガがすごい!2022」が発表された。毎年この季節になると発表される「このマンガがすごい!」とは宝島社が発行する漫画紹介本のことで、各界のマンガ好きたちがその年に最もおすすめしたい作品を選出、アンケート結果を元にランク付けを行い、総合順位を決定する。漫画界では年末の風物詩にして今年を締め括るイベントとなっている「このマンガがすごい!」だが、今年はオトコ編1位が『ルックバック』(藤本タツキ)、オンナ編1位が『海が走るエンドロール』(たらちねジョン)と発表された。
『ルックバック』は漫画家、『海が走るエンドロール』では映画制作、両作品とも夢への再生と成長を描いたクリエイター群像劇だ。『ルックバック』は『チェンソーマン』の世界観や実際の事件を彷彿とさせるようなシーン、オマージュが作中に散りばめられていてとにかく考察が捗るし、『海が走るエンドロール』は、65歳の主人公が夢に向かって再起する過程、そして扉絵に潜んだ作者の映画愛が素晴らしく......とにかく両作品とも”誰かに語りたくなる”ほどの「物語の濃さ」や「緻密な仕掛け」が印象的だった。
衝撃の世界観と圧巻の画力『フールナイト』
冒頭に挙げたのは、僭越ながら私が選んだ「2021年コミックBEST10」である。基準としては、2021年1月から2021年11月の間に第1巻が発売された作品であること、そして「このマンガがすごい!2022」で1位に輝いた先述の2作品のように「物語の濃さ」や「緻密な仕掛け」で”誰かに語りたくなる”ほど心を突き動かした作品を選出した。
1位の『フールナイト』(安田佳澄)は、小学館「ビッグコミックスペリオール」で連載中の作品で、単行本1巻発売時には『血の轍』の押見修造、2巻では『東京喰種 トーキョーグール』の石田スイが絶賛のコメントを寄せた。
物語の舞台は、草木が枯れ果て酸素が薄くなった遠い未来の地球。死期が近い人間を「霊花」と呼ばれる植物にする「転花」という技術が開発され、人々は「霊花」から生み出されるわずかな酸素で生き延びている。「霊花」になることで得られる国からの莫大な支援金を目当てに自ら「霊花」なることを選んだ神谷十四郎と、ディストピアを生きる人々の物語を描く。
人類に迫られるのは過酷な格差社会で”人”として生きるか、それとも一時の裕福さを手に入れて”植物”として死んでいくか.......。この複雑かつ残酷な設定と、絶望や苦悩に陥りながらもなお生きようとする力強いキャラクターの心情を圧巻の画力で表現している。
読み進めていくうちに感じる、どこか現実世界を思わせるような不条理、そして美しい黒と白のコントラストにぜひ注目してほしい。