【漫画】ヒーロー嫌いの高校生が不器用な戦闘員を手助け? SNSの功罪も見えてくる『ヒーローアンチ』

杉岡ケイさんインタビュー

ーー『ヒーローアンチ』は、「正義」と「悪」を相対化するメッセージをたたえた作品ですが、一方でエンターテイメント作品としての完成度がとても高く、最後まで熱中して読んでしまいました。まず、この作品の着想から、制作に至った経緯についてお聞かせください。

杉岡ケイ:褒めていただいて光栄です! 制作に至った経緯ですが、現在とある雑誌の月例賞を獲ることを目標に、編集部の担当さんと一緒に作品を作っているところなんです。で、今作はその担当さんと初めて一緒に制作した読切作品になります。キャラクターについての詳細は後述しますが、まず「おしゃべりで屁理屈をこねる主人公が描きたい」と担当さんに提案したところ、「じゃあそのキャラがショッカーと出会ったらどうなると思う?」とアイデアを出していただきました。

 その流れで『ヒーローに勝てない悪役を助けてあげる主人公』という大筋は決まったのですが、当初はその2人が公園で喋ってヒーローを倒す作戦を考えて終わり、でした。一旦、担当さんからもネームのOKが出たのですが、「やっぱりこの作戦、実行までやった方が面白いと思う!そんでもって主人公が負けてほしい!」と数日後に言われまして(笑)。

 そりゃあその方が面白そうだな!と思ったので続きも考えて……そのために敵役のヒーローのことも考えて……と膨らませていった感じです。ただ、私の中でどうしても主人公を勝たせてあげたかったので、そこは譲りませんでした。

 なので、なぜ正義と悪がテーマになったのか、と言われると、正直なところ「担当さんのアイデアでショッカーが出てきて面白そうだったらそうなった……」みたいなあまり主体性のない答えになってしまうんですよね。それをしっかり物語として面白くしてくれたのはひとえに担当さんの手腕によるものだと思います。

ーーSNSや動画サービスという、今日的な要素がうまく配置されているのも印象的でした。

杉岡ケイ:もともと腕力の弱いキャラクターが知力やアイデア、トリックで勝利する展開がめっぽう好きでして。力で敵わないなら諦めるしかないのかな……と悩んでるヒロインのところに主人公がやってきて、「そんな方法で!?」みたいな作戦を教えてあげる、という構図は最初から決めていました。その意外性の部分にSNSや生配信を当てはめたのは、単に私が日頃からSNSに入り浸っていたり実況者さんの生配信をよく見たりしているから出てきたんだろうなと思います。

 いわゆる戦隊モノのヒーローと悪役って、最終的には必殺技や力の強い方が勝つ。もちろんヒーロー側の努力の賜物なのでそれはそれで格好良いんですけど、歴史が古いからステレオタイプのイメージがどうしてもあって。だからこそ新しい角度からの倒し方が面白いんじゃないかなと思って採用しました。

ーーちょっとひねくれたところのあるキレモノな主人公、秘めた思いのある器用とはいえないヒロインと、ビジュアルも含めてキャラクター造形も魅力的です。この二人のキャラクターは、どのようにして生まれたのでしょうか?

杉岡ケイ:制作の一番最初の時点で、ストーリーより先に、描きたいキャラクターを決めるように担当さんに言われました。そして、おそらくこれは私が長年二次創作しかしてこなかったゆえのアドバイスなのかもとは思いますが、「既存のキャラクターをモデルにしてください」と。なので主人公の黒城くんには、明確にモデルがいます。

 黒城くんのモデルは『多弁探偵SAKA』。ゲーム実況者の幕末志士様が制作したゲーム内のキャラクターなのですが、平たく言うと「多弁で犯人を追い詰める探偵」です。諸事情で色々と変更した点はあるのですが、煽り気味のセリフが多いのはその名残です。SNSに強いという点も、多弁探偵SAKAのモデルになっている幕末志士の坂本様の影響が多大にあると思います。ビジュアルに関しては無意識ではありましたが、『アイシールド21』の蛭魔先輩の影響を受けていると思います。三白眼、八重歯、カチューシャなどは自分の性癖を詰め込みました。

 ヒロインのましろちゃんは黒城くんと対比して、天然ボケっぽく真っ直ぐで不器用で明るい子にしよう!と思い生まれました。ただ、悪の道を選ぶほどにヒーローに対しての恨みがあるはずなので、過去に何かあったんだな……みたいな。本当はもっとその部分を丁寧に描くべきだったんですが、ページ数の都合や技量不足でサラッと流してしまいました。ビジュアルに関しては、物語中盤のヘルメットを外すシーンで驚きを出したかったので、「とにかく可愛くしよう!」と担当さんから言われまして。これもまた幕末志士様が制作したゲームですが、『キリザキ君は。』の高モリ子ちゃんという女の子をモデルにしています。世界一可愛いです。

ーーあらためて、本作をどんなところに注目して読んでもらいたいですか?

杉岡ケイ:素人がほぼ初めて描いたような創作漫画ですので至らぬ点はたくさんありますが、キャラクターの表情は妥協せず描き切ったので、「可愛い」とか「顔がいい」と思ってもらえると一番嬉しいかもしれません。どこに注目するかは読み手の自由だと思っていますが、読んで下さった方の感情が少しでも動いたなら幸いだなと思います。

ーーそもそも漫画を描くようになったきっかけについても教えてください。

杉岡ケイ:先述しましたが、長年……約15年近く二次創作で同人活動をしていました。推しの妄想をして、形にしたいから漫画を描く、同人誌にする、という感じで細々と。あまり描いている人間を想像させない方が良いのかもしれませんが、中の人は三十路子持ちの会社員です。昔は漫画家になれたらいいなと淡い夢を持った時期もありましたが、一般企業に就職して子供も生まれて、歳も歳だし漫画は趣味で一生を終えるとばかり思っていました。

 それがつい2年程前、産休中にたまたま同人仲間の先輩と話す機会があり、その時「商業誌で連載することになったんだ」というお話を聞いたのが転機でした。同人誌即売会の出張編集部に持ち込んで……というお話でしたが、私的には「30歳越えても漫画家デビューってできるんだ…!」という驚きと興奮でいっぱいになってしまい、だったら私もやってみよう!と残りの産休期間を使って初めての創作漫画を描き、賞に応募したところ縁あって今の担当さんに声を掛けていただきました。そのあとすぐ復職して育児と仕事の両立に翻弄され1年程は創作ができなかったのですが、ようやく落ち着いたので担当さんに連絡して、じゃあ読み切り描きましょう!という流れで描いたのが『ヒーローアンチ』になります。

ーー漫画をお描きになる際に、大事にしているポイントがあれば教えてください。

杉岡ケイ:創作漫画を始めたばかりなので、何が重要になるのかはまだまだ私も勉強中なのですが、とにかく自分のフェチを出す、楽しく描くというのは忘れないようにしています。あとはセリフやコマをなるべく減らしたり、視線誘導を意識して読者の“読む労力”を減らすように。これは今回の作品を描き始めてから学んだことでしたが、今まで全然できてなかったことを痛感したので気を付けるようにしています。

ーー今後、どんな作品をつくっていきたいですか。

杉岡ケイ:冒頭で月例賞を目指しているとお話ししましたが、この作品では残念ながら入賞することはできませんでした。ですが具体的な課題も見つかったので、反省を活かして次回作を現在構想中です。どんな作品を作りたいかという具体的なイメージはありませんが、自分が描いてて楽しい、自分が読んで面白いと思える作品づくりを心掛けたいと思います。

 実際に賞が取れたら漫画家になるのか、週刊連載を目指すのか、などは今も決まっていません。仕事や家庭の事もあるし……。ただ、何らかの形で漫画を描く事をお仕事にできたらいいなとは思っているので、まずは賞が獲れるくらいの実力をつけて、その後のことは賞が取れてから考えよう!という事になっています。本当に良い担当さんに付いてもらえたなと思います。また、この歳になっても夢を追わせてくれる家族や周りの縁にも本当に感謝しています。

■杉岡ケイさんのツイッターアカウントはこちら
@kei_sugioka

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