【漫画】こんな一人旅がしてみたい! 女子が車中泊でニュージーランドを巡る『車のおうちで旅をする』が話題

ーー訪れた土地の非日常的な空気、いとうさんの目にした景色の美しさを感じることができる漫画でした。ニュージーランドでの旅を始めたきっかけを教えてください。

いとうみゆき(以下、いとう):幼いころからなんとなく生きづらさを覚えていました。ここじゃないどこかへ行きたいという気持ちはずっと抱きながら大人になり、今とは違うところでもっと生きやすい可能性を見つけたいという思いから、海外へ行くことを決めました。

ーー旅先として国内ではなく海外を選んだ理由を教えてください。

いとう:どこでもいいけれど、どうせなら遠くに行こうと思っていたからです。当時はもっと知らない生き方とか、もっと知らない自分の可能性に出会いたいなと思っていました。全然知らない場所に行くことで、自分の目指しているものに近づけるかなと考え、海外へ行くことを選択しました。

 また就職や結婚など、年齢を重ねると自分のために時間をつくることがむずかしくなると思っていました。時間に余裕があったからこそ、海外に行くのは今だと思いました。

ーーもともとキャンプなどが趣味だったのですか?

いとう:ぜんぜん違います。部屋の中で過ごすことが多く、キャンプ場に行ったこともなかったです。ただ散歩や旅行は好きで、テントを持ちヒッチハイクで能登半島や淡路島へ行ったことはありました。安心できるおうちがあったからこそ、自分は色々ところに行けたのだと思います。

 インドア派の私にとって、車のおうちは最強の旅行の手段だと思います。おうちにいる状態で色んなところに行けるので。

ーー車のなかで生活して感じたことを教えてください。

いとう:1年間、車のなかで過ごしてみて、車中泊の生活は日本でのひとり暮らしとほとんど変わらないと思いました。アパートの部屋よりは小さいですけど、キッチンやベッドがあって、パーソナルスペースがあって、窓があってーー。ただ窓から見える景色は毎日違って、行こうと思ったらどこにでも行けます。

 普通に生活しているような毎日であったため、漫画では車での生活は特別なものではないよというところを伝えたかったです。

ーー車旅の魅力もさることながら、いとうさんの描く景色から写真にはない美しさを覚えました。

いとう:うれしいです。私も写真を撮ることがありますが、素人であるため記録としての写真になってしまい、目でしか景色の美しさを感じることはできません。でもその場の音とか、手触りとか、全身で感じている私は、その場の魅力を1番知っているんです。なので絵を描くときには、ただ目で見たものではなく私が五感で感じたものを表現したいと思っています。

ーー体感した感動を漫画としてまとめる際に意識したことを教えてください。

いとう:旅をしている期間を含め、2年ちかくSNSに車旅の様子を投稿してきました。本作はその集大成として描いた作品でもあります。これまで小出しにしてきた自分の生活を、最後に1日の様子を描いて、この旅の記録を終わりにしようと考え本作を描き上げました。

 意識したこととして、言葉をなるべく削り、余白をつくることを考えていました。漫画はイラストがあるからこそわかりやすく伝えられるツールだと思うので。自分の言葉を減らした分、読み手の方が絵から読み取ってくれるように、全部のコマを1枚絵くらい、真面目に描きました。

 また本作で描いた景色には、自分がいいなと思った日の景色をそれぞれ選んで描いています。漫画のズルいメリットなのですが、本作には私が体感したなかで、すごく良かった日の景色をちょうどよく積み上げているのです。

ーー車旅から帰ってきてからのことについて知りたいです。

いとう:日本に帰国して1年ちかく経ちましたが、その期間のほとんどを旅のまとめにつかっていました。10月末に旅の様子をまとめた本が出版されたのですが、本を作成するためにすごく時間がかかってしまい……。コロナ禍の影響もあり、車旅をしていた1年とは全く異なる、家にこもって絵を描き続ける日々を過ごしていました。本が無事に完成したので、これから色んなところに旅へ行こうと考えています。

 本の作成にあたり、今までの自分と向き合いながら作業をしてきました。旅の集大成となる漫画をつくるなかで、改めて自分が体験したことを再認識できたと感じています。このワクワクとした気持ちのまま、次の旅へ行きたいです。

ーー本作や書籍の読者にメッセージをいただきたいです。

いとう:自分の漫画を読んでくれたこと、自分の生活をいいなと思ってくれたことをありがたく感じています。ただ作品を通じて読者の方に特段お伝えしたいことはありません。自分の生活を描いただけであり、自分のために旅のまとめを描いただけなので……。

 しかし自分が自分の暮らしを発信している理由として、だれかの選択肢のひとつになったらいいなという気持ちはずっとあります。日本では知られていない生活や旅のかたちだと思うので、本作がなにかの選択のひとつになれたらうれしいです。

■書籍情報
いとうさんのニュージーランドでの車旅の様子がまとめられた書籍『車のおうちで旅をする』発売中!
『車のおうちで旅をする』
著者:いとうみゆき
出版社:KADOKAWA
発売日:2021年10月29日

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