『女の園の星』星先生の観察日記はなぜ面白い? 清少納言にも通じる、鳥井毬子の才能

 川島明(麒麟)と山内健司(かまいたち)がMCを務め、ふたりが漫画を“沼のようにハマって” 楽しむTV番組『川島・山内のマンガ沼』(日本テレビ系)。『夢中さ、きみに。』や『カラオケ行こ!』を手掛けた和山やま氏の特集回にて、『女の園の星』で1番好きなキャラクターを尋ねられた和山氏は「鳥井 毬子(とりい まりこ)」を挙げた。

 鳥井がスポットライトを浴びたエピソードとして、彼女が書いた星先生の観察日記が世に知られてしまった第1巻「5時限目(5話)」が挙げられる。このお話はSNSで鳥井の日記に関する多くの感想が投稿されるなど、本作のなかでも人気の高いエピソードのひとつと言えるだろう。本稿では多くの人を虜とした鳥井の日記の魅力を考察したい。

星先生を観察するストイックな鳥井

 星先生が担任を務める2年4組の生徒であり、ロングヘアとカチューシャが特徴的な鳥井毬子。2021年9月に発売が開始された本作のLINEスタンプでは、現代文の課題で誤って星先生の観察日記を提出してしまったことに気が付き、驚きの表情を浮かべる鳥井。女子生徒「古森」が作成した、中学時代の星先生が印刷されたステッカーを手に入れて「お宝だわ~」と喜ぶ鳥井の姿が収録されている。

 彼女を語るうえで、冒頭でも挙げた「星先生観察日記」の存在を欠かすことはできない。

 これは鳥井が暇つぶしのため星先生を観察してわかったことを記した日記であり、星先生の服装や言動、平均あくび回数などと共に鳥井の感想が記録されている。現代文の授業で用いるノートと同じ種類のノートに執筆していたため、課題を提出する際に誤って観察日記を提出してしまい、星先生に日記の存在がバレてしまった。星先生いわく観察日記は休日以外ほぼ毎日つけられているらしい。

 誰かに見せるため書いているのではなく、己の探求心を燃やし続けながら日記を書き続ける鳥井。星先生の素顔を知るため、授業で分からなかったところを尋ねるふりをして放課後の職員室に忍び込むなど、ストイックな彼女の熱量は計り知れない。

 そんな鳥井がつける日記から筆者が連想したのは、日本三大随筆と称される『枕草子』だ。

鳥井の日記と『枕草子』の共通点

 平安文学を代表する『枕草子』。歌人である清少納言が執筆したと伝わる作品であり、中宮定子に仕えた彼女が宮廷社会や自然を観察しながら記した随筆である。『枕草子』と鳥井の日記を比較すると共通点が浮かび上がる。

 以下は、鳥井が観察日記に記した文章だ。

4月20日(月)
教員用トイレから星先生が出てくる。
洗った手を洋服でそのまま拭いていた。
男の人って大人になっても
ああなのかしら。
ハンカチを持ってほしい。
大人なんだから。(1)

5月12日(火)
今日は避難訓練があった。
サイレンが鳴ったとき星先生は
みんなに向かって「地震ですよ」と一言。
本当に地震が起こったとき
「地震ですよ」という人はいないと思う。
知ってるし。(2)

 「春はあけぼの……」からはじまる『枕草子』のなかで、清少納言は寒さの厳しい冬において、その厳しさが増す早朝の霜の白さや急いで火を起こす様子がよいのだということを記した。また将来のこともろくに考えず、ただただ夫によりかかって、目先の幸福に酔っているような女はどうかと思う旨を記し、女性はそれ相当の男性から目を付けられるのを待つことがよいとされていた(3)当時の価値観に疑問を呈している。

 日常の些細な違和感に目を付けるところや、観察者ならではの冷静かつユーモラスな筆致に魅力がある『枕草子』には、鳥井の日記にも通じるものを感じる。

 『枕草子』の最後には、本書を他人が見ることはないと思っていたこと、人にとっては不都合な記述もあるため本書を隠していたが、意図せず世間に漏れてしまったことが記されている(これは断り書きとして記したものであり、人目に付くことを念頭に置いて執筆した可能性も考えられる)。『枕草子』の作者である清少納言の境遇は、星先生にバレないように描き続けてきたが、誤って星先生の目に触れてしまった鳥井の境遇と非常に近しい。

 観察日記の筆跡や現代文のノートに書かれた氏名から、相当な達筆さがうかがえる鳥井。鳥井の日記には古典文学にも通じる普遍的なユーモアがあり、文筆家としての才覚が感じられる。将来は清少納言のような名の知れた作家になるのかもしれない。

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