アニメ化で注目『スーパーカブ』の魅力とは? 少女×バイクの地道な成長物語に共感

 ネット小説が商業出版され、コミカライズを経てアニメ化される。現在のテレビアニメの幾つかは、このような経緯をたどって生まれた作品である。そのひとつが、4月7日から放送が始まったテレビアニメの原作となった、トネ・コーケンの『スーパーカブ』シリーズだ。

トネ・コーケン『スーパーカブ』1巻(スニーカー文庫)

 物語の舞台は、山梨県北杜市。主人公は高校2年生の小熊という少女だ。父親は小熊が生まれて間もなく事故で死亡。母親は小熊が高校に進学すると、お役御免とばかり失踪した。親族との縁は薄く、奨学金の給付を受け、ひとり暮らしをしながら高校に通っている。友人もなく、趣味もない。毎日を無味乾燥に生きている。

 だが、そんな自分に気づいた小熊は、中古のホンダ・スーパーカブを手に入れる。1958年に発売されて以来、その頑丈さと使い勝手のよさで、世界中を走っている小型オートバイだ。総生産台数は一億を突破し、熱烈な愛好家も多い。これがきっかけになり、小熊の生活は徐々に変わっていく。会社社長の娘で、成績が上位でスポーツも優秀なクラスメイトの礼子から声をかけられたのだ。礼子は、郵便配達員が乗っていることで郵政カブと呼ばれるホンダMD90に乗っていた(後にハンターカブ)。カブを通じて、なにかと一緒に行動することが増えた小熊。また、カブ関係に使う金を稼ぐために、バイク便のアルバイトも始めるのだった。スーパーカブに乗って、どこまでも行けると思う、小熊の世界は広がっていく。

 というのが第1巻の簡単な粗筋だ。たしかに小熊の生活は、スーパーカブを手に入れたことで色づくが、特別なことが起こるわけではない。遠くまで行けることの喜びや、ガス欠の苦しみなど、地道でリアルな描写が積み重ねられていくのだ。郵政カブで富士山にアタックする礼子の方が、よっぽど主人公らしい行動をしている。

 だが私は、小熊の小さな行動や感情に魅了される。特に、スーパーカブによって自分の世界が広がる感覚は、多くの読者が同意するのではないだろうか。バイクには乗らなくても、自転車に乗るようになって、同じような気持ちを抱いたことがあるはずだ。いままで知らなかった道、行けなかった場所。そこに行けるようになり、さらに先の世界があることに気づいて、心がドキドキする。これから、どこまでも行けると思ったときの高揚感は忘れがたい。だからこそ、小熊に共感せずにはいられないのである。

 そんな小熊だが、第1巻の後半では、思いもかけない行動に出る。スーパーカブがなければ、これほどアグレッシブになることはなかったろう。バトルも恋愛もないが、ここにはスーパーカブと成長していく少女がいるのだ。現在のライトノベルの中では、やや異色の題材といえるが、それが支持されテレビアニメにまでなったことは喜ぶべきこと。どんなジャンルでも多様性が大事である。