『鋼の錬金術師』スカーはいかに負の連鎖を断ち切った? 復讐鬼が辿った運命

鬼が人間の心を取り戻していく

 一筋縄ではいかないスカーとの戦い。エドと対峙していく中で、スカーは自身が手にかけたロックベル夫妻の娘であるウィンリィとも出会うことになる。その時、スカーは自分が復讐を行う立場だから反撃をする意図はあるとしたうえで、ウィンリィに銃口を向けることを認めた。

 しかし、ウィンリィは戦いの中で傷を負ったスカーの手当てをする。「両親が生かした命だから」と言って。「己れを許すのか」というスカーに、ウィンリィは「勘違いしないで、理不尽を許してはいないのよ」と応える。それはかつてスカーが同胞に言われた言葉でもあった。

「負の感情が集まれば世界は負の流れになってしまう」

 兄がそう言ったように、スカーは負の流れへと乗っていた。だが、エド、ウィンリィ、そして彼らの周りにいる人たちとコミュニケーションを取ることで少しずつ、表情に変化が生まれていく。家族を失い、孤独になったスカーが人と触れ合うことで次第に本来の自分を取り戻す。『鋼の錬金術師』はエドたちの物語であると同時に、スカーが生まれ変わるための物語でもあったのだ。

 憎しみは何も生まない、という言葉はもう聞き飽きたという人もいるだろう。しかし、その憎しみを飲みこむ悲しみと苦しみを誰かが耐えなければ負の連鎖は断ち切れない。それを悲しい物語とするのか、強き者の物語だとするのか。それは受け取る者によって変わるのかもしれない。

(文=ふくだりょうこ(@pukuryo))

■書籍情報
『鋼の錬金術師』(ガンガンコミックス)27巻完結
著者:荒川弘
出版社:スクウェア・エニックス
ガンガンONLINE『鋼の錬金術師』サイト

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