Mr.Childrenの“読む”ベストアルバム『道標の歌』が示す、メンバー4人のパワーの均衡

「ミスチルのこと 深く知ることが出来た気がします。好きになりそうです。」

 11月19日に発売された書籍『Mr. Children 道標の歌』に、桜井和寿はこんなコメントを寄せている。バンドメンバー本人からの好意的な声に加えて、装丁を担当したのは長年このバンドのアートワークに関わっている森本千絵。さらに、その書き手はこれまでバンドに関わる仕事を様々な局面においてこなしてきた小貫信昭。「オフィシャル」な要素がぎっしり詰め込まれているこちらの本のコンセプトは「Mr.Childrenの軌跡を代表曲とともに紐解く“読む”ベストアルバム」である。

 この物語のスタートは、「まずはこの4人が、いかに結集したかを紹介しよう。それは中学時代にまで遡る」。つまり、Mr.Chlidrenというバンドの原型が形作られる前、それぞれのメンバーが音楽に目覚めるきっかけを描くところから始まる。同じ高校で出会ってバンド活動を共にしていた桜井和寿、田原健一、中川敬輔の3人は、吉祥寺のライブハウス「シルバーエレファント」にて鈴木英哉との邂逅を果たす(田原、中川と鈴木は同じ中学の出身)。1989年1月1日に「Mr.Children」と名乗り始めた彼らは1992年にメジャーデビュー。その際に出会ったプロデューサー、小林武史とのタッグもこれ以上ないほど機能し、1993年リリースのシングル『CROSS ROAD』のロングヒットを経てブレイク。1994年リリースの『innocent world』でその人気は決定的なものとなり、その後は活動休止や桜井の病といったアクシデントもありつつ、今に至るまで国民的な存在としての立ち位置を維持し続けているーーこれまで断片的には語られてきたバンド前史をわかりやすくまとめたうえで、多くの人に知られているバンドのブレイクストーリーとリンクさせる本書の構成は、彼らのキャリアを総ざらいしているという点においてまさに「“読む”ベストアルバム」といった趣である。

 「多くの人に知られている」とは書いたものの、Mr.Childrenというバンドはその人気や知名度とは対照的に、時として活動の輪郭が見えづらくなることがある。たとえば、特にノンプロモーションでのリリースとなったアルバム『SENSE』など、2010年前後にこのバンドの中で何が起こっていたかというのは傍から見ているとやや不透明感があった。本書ではそういった時期にもスポットライトが当てられている。ミュージシャン仲間をスタジオに招いてともに演奏することを起点として最終的には音楽映画の公開にまでつながったプロジェクト『Split The Difference』の背景とその様子を丹念につづったパートはこの本のハイライトの1つであり、2008年12月にリリースされたアルバム『SUPERMARKET FANTASY』以降わかりやすいメディア露出が減っていた時期においてもMr.Childrenが音楽的には豊穣の季節を迎えていたことがよくわかる。

 また、このバンドに関する語りにおいて「桜井和寿の話しかしていない」という点がしばしば問題となるが、本書は書き手とバンドの親密な関係性を生かしてそのハードルをクリアしている。田原がバンド結成において重要な役割を果たしていたというエピソードは(「桜井に対し、中川と一緒にバンドを組むことを提案しているのが田原だ。「なんとなくこの2人なら、馬が合いそうな予感がした」からである。」)、最近のMr.Childrenの活動において田原がリーダーシップを発揮していることが各所で明かされている今読むからこそ非常に示唆に富んでいる。

 その存在の巨大さ、およびいまだ衰えない「現役感」ゆえか、Mr.Childrenの歴史を体系的に網羅するアウトプットというのはこれまでなかなか世に出ていなかった。そういった状況において、このバンドの「オフィシャルな歴史」が桜井和寿に過剰にフォーカスされることなく4人それぞれの動向がフラットに語られる形で編纂されたことは、「Mr.Childrenはメンバー4人のパワーの均衡によって形成されているバンドである」ことを明確に示しているという点において非常に価値があるもののように思う。

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