太宰治が誰よりも「転生」させられる理由とは? 異世界に、現代に……時には異能力者に変身も
それは、『1000の小説とバックベアード』が三島賞に輝いた佐藤友哉が、2018年に出した『転生!太宰治 転生して、すみません』でも同様だ。
やはり玉川上水で心中しようとしたところ、2017年の現代に転生してしまった太宰治が主人公。救助され運び込まれた部屋で目覚めて知り合った女性に、すぐさま「死のうか」と呼びかけ、死に場所をさがしてさまようという、いかにも太宰といった姿を太宰のような文体で書いていく。
受賞できなかった芥川賞のパーティに潜り込み、「芥川賞とは、悪魔の食卓である!と叫んで繰り出した演説は反文壇的。太宰の“亡霊”の口を借りつつ、「いつまで、サロン遊びを、つづけるきだ」となれ合いを糾弾する。過去の人間の感性を借り、現代の社会や変化した文学を見る批評的な部分もある作品だ。
続編『転生!太宰治2 芥川賞が、ほしいのです』ではツイッターを始め、映画『カメラを止めるな』を見る太宰を通して、現代の文化や社会が斬られる。次があるなら、新型コロナウイルス感染症のパンデミックで死があふれた現代を、その感性で斬る太宰を見てみたいが……。
太宰とは名乗らずとも、太宰の転生ものとしか思えない漫画もある。野田宏原作、若松卓宏作画の『異世界失格』(小学館)だ。
玉川上水のそばで、女性と心中しようとしてトラックにはねられ、目覚めると異世界に飛ばされていた作家が、すぐさま薬をのんで死のうとしたり、怪物に襲われて「グッド・バイ……」とやられるままに任せていたりする。
ここでも本人は無力ながら、女神やネコ耳の少女が味方となって護り、敵と戦ってくれる。まさに太宰的。こうして多彩な作品世界に遍在している太宰治たちが一堂に会したら、同族嫌悪から互いを罵倒し始めるのだろうか。それとも連れだって心中しようとするのだろうか。そんな太宰バトルロイヤルがいつか、この太宰人気の中で見られたら楽しいに違いない。
■タニグチリウイチ
愛知県生まれ、書評家・ライター。ライトノベルを中心に『SFマガジン』『ミステリマガジン』で書評を執筆、本の雑誌社『おすすめ文庫王国』でもライトノベルのベスト10を紹介。文庫解説では越谷オサム『いとみち』3部作をすべて担当。小学館の『漫画家本』シリーズに細野不二彦、一ノ関圭、小山ゆうらの作品評を執筆。2019年3月まで勤務していた新聞社ではアニメやゲームの記事を良く手がけ、退職後もアニメや映画の監督インタビュー、エンタメ系イベントのリポートなどを各所に執筆。
■書籍情報
『太宰治、異世界転生して勇者になる 〜チートの多い生涯を送って来ました〜』(オーバーラップノベルス)
著者:高橋弘
イラスト:VM500
出版社:オーバーラップ
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『文豪ストレイドッグス』
原作:朝霧カフカ
漫画:春河35
出版社:KADOKAWA
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『転生! 太宰治 転生して、すみません』
著者:佐藤友哉
イラスト:篠月しのぶ
出版社:講談社
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『異世界失格』
原作:野田宏
作画:若松卓宏
出版社:小学館
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